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ガラス系の物理: 固体物理、ソフトマターから深層学習の統計力学まで


[softparticles]

模型コロイド粒子系のメソスケールでの雪崩(雪崩の前(黒)後(灰色)での粒子配置)(Okamura-Yoshino,2012)

結晶では原子・分子が規則正しく配置し、硬い固体状態が実現しています。 一方、ガラスは液体のように乱れたまま硬くなっています。 その剛性発生のメカニズムは、長らく物理学における重要な未解決問題になっていました。 一方、コロイドや、エマルジョン、砂など、巨視的スケールの「つぶ」をぎっしり詰めた系、 ジャミング系がクローズアップされ、その力学特性に興味が持たれています。 これらの問題について、我々はレプリカ液体論などの理論、 分子動力学法などに基づく数値シミュレーションによって研究しています。

ガラス化するのは並進自由度だけではありません。方向自由度のガラス転移、また並進自由度と方向自由度の双方が絡んだガラス転移の 理論解析を進めています。

従来のスピングラスと異なり、外的乱れなしで起こるスピングラス転移も見出し、理論・数値シミュレーションによって研究を進めています。

またここから、連続自由度の制約充足問題や、情報推定の情報統計力学の新しい問題を開拓する道が拓けてきました。さらに最近、これまでブラックボックスであった深層ニューラルネットワークのメカニズムを、統計力学的に明らかにすることができることがわかってきました。

このようにランダム系の統計力学は一見非常に異なる分野をつないでいます。

ガラス・ジャミング状態での力学応答

レプリカ液体論は、液体密度汎関数理論と、ランダム系の統計力学で培われたレプリカ法を組み合わせた理論で、最近急速に発展しています。ごく最近、無限大次元極限で厳密になる平均場理論がこの方法で構成できることが示されました (Charbonneau-Kurchan-Parisi-Urbani-Zamponi 2014)。その結果、高密度領域では、ガラス転移での1段階のレプリカ対称性の破れ(1RSB)に上乗せされて、連続的なRSBが起きること(ガードナー転移)が示されました。これによって、ガラス転移、ジャミング転移を第一原理的かつ統一的に解析できるようになってきました。

我々は、レプリカ液体論を用いてガラス・ジャミング状態の力学特性を第一原理的に解析する方法を見出しました。また 上記のガードナー転移が粘弾性特性(レオロジー)に反映されることを理論的に示しました。 さらにこれを(実験に先んじて!)検証するために、分子動力学(MD)シミュレーションを用いた数値実験を行っています。 大規模な計算を行うために、阪大サイバーメディアセンター、東大物性研、岡崎然科学研究機構などのスパコンを用いています。

  • また剛体ガラスの垂直・シアひずみに対する応答を数値シミュレーションによって詳細に測定し、シアジャミングと降伏によって ガラス状態が存在できる限界が定まっていることを明らかにしました。 (Jin-Urbani-Zamponi-Yoshino 2018) 大阪大学 研究リリース速報「渋滞するか流されるか コロイドたちのスクラム」

  • さらにシアジャミングを含むジャミングの臨界特性が普遍的であることを明らかにしました。 (Jin-Yohino 2021) 大阪大学 研究リリース速報「きわどさ」に見つけた“普遍の法則」

  • 回転自由度を持つ粒子系のガラス・ジャミング転移

    現実の分子、コロイド、粉体などには並進自由度のみならず方向(スピン)自由度があります。方向自由度、また方向自由度と並進自由度の絡んだガラス転移、ジャミングについても理論・数値的に研究しています。

    [circular_coloring]

    レプリカ液体論を一般化し、並進自由度と方向自由度を併せ持つ系を解析できるようにしました。 無限大次元極限で厳密になる平均場理論になっています。 これを用いてパッチコロイド系を解析し、方向自由度がもたらす新しいガラス-ガラス転移を発見しました。 (Yoshino 2018, プレプリント)

    外的乱れなしでガラス・ジャミング転移を起こすベクトルスピン模型

    [circular_coloring]

    ある種の無限大次元極限で厳密に解ける一群のベクトルスピン模型を構成し、レプリカ法によって解析しました。 スピンの成分数Mのベクトルスピンが、c個のp体相互作用に参加しているというベーテ格子を考えます。 比を固定し、 極限を取ると可解模型になります。 解析の結果、「スピン自由度」のガラス転移、ガードナー転移、ジャミング転移などについて明らかにすることができました。 (Yoshino 2018, SciPost Physics)

    この模型では、いわゆるスピングラスとは異なり、quenched randomnessなど外的な乱れなしに、過冷却常磁性状態から自発的にスピン自由度のガラス転移が起きています。Derridaのランダムエネルギー模型との関連も厳密に示され、ランダムネスが自己生成(self-generate)されていることを証明しました。

    いわゆるp(>2)体相互作用スピングラス平均場模型は、Kirkpatrick-Thirumalai-Wolynessらの研究以来、構造ガラスとの関連で良く知られています。そのスピングラス相がそっくりそのまま、 この模型の過冷却常磁性相からのガラス転移で再現できることも示しました。

    実験的に見つかっていながら理論的にメカニズムが説明されていなかった、乱れのないパイロクロア格子状のフラストレート磁性体におけるスピングラス転移 についての理論模型を提案し、数値シミュレーションに基づく解析を行いました。 (Mitsumoto-Hotta-Yoshino 2019, PRL)

    ベクトル自由度の情報統計力学: 制約充足問題、統計的推定問題

    上記の模型で、スピンの相互作用ポテンシャルに、ハードコア相互作用のような 強い非線型ポテンシャルをを考えることができます。 (Yoshino 2018, SciPost Physics) そうすると、「連続色によるグラフの彩色問題」(左図)におけるSAT/UNSAT転移(ジャミング転移に対応)など、連続自由度の制約充足問題を研究することができます。さらに、多成分ベクトル型データ群の統計的推定問題など、新しい情報統計力学の問題へのつながりが最近わかってきました。


    [circular_coloring]

    体相互作用、2成分スピンの場合、連続色によるグラフ彩色問題に対応づけられる。 の色角度(HSVYカラーマップ)で表される連続色で各ノードを彩色する。ただし、隣接ノードにおける角度差がある閾値以上でなければならない、という制約を課す。 グラフの結合数を増やしたり、色角度差の閾値を増やしたりして 拘束条件を厳しくすると、「解空間の分裂」(ガラス転移)、「解空間の階層化」(ガードナー転移)、「解空間の消失」(SAT/UNSAT転移あるいはジャミング) が起こる。


    [clustering_continuousRSB]

    深層ニューラルネットワークの統計力学

    「最近の研究から - 深層ニューラルネットワークの解剖ー統計力学によるアプローチ」日本物理学会誌76巻9号(2021年9月号)のリードページ (本文の原稿ご希望の方はご連絡ください。)

    [multilayer_network]

    上記の研究の自然な発展として、深層ニューラルネットワーク DNN(deep neural network)による機械学習の統計力学的研究が 出来ます。深層ニュラールネットワークでは 通常のスピングラスでのquenched randomnessに相当するものが入出力層を除いて見当たりません。 しかし、上記の研究の方法を用いればレプリカ法で統計力学的な解析ができるようになります。

    多数の学習データを課された深層ニューラルネットワークを制約充足問題としてみたとき、 学習データの増大とともにネットワークの端から内部に向かう逐次ガラス転移(解空間の分裂)が起こり、 それによってネットワークの端から深部に向かって、解空間の分裂の様子が複雑なもの(多段階に レプリカ対称性の破れたガラス相)から単純なもの(レプリカ対称な液体相)に段階的に空間変化していることが最近わかりました。 また教師あり学習の設定(統計的推定問題)でも、学習データの増大とともに 推定に成功した領域がネットワークの端から内部に向かう逐次相転移によって拡大してゆくことがわかりました。 (Yoshino 2020, SciPost Physics Core)

    [DNN_sandwich]

    深層ニューラルネットワークでなぜ学習が上手くゆくのか、特に 「なぜデータの数を遥かに上回る膨大な数のパラーメータで学習を行って、単なる丸暗記ではない、意味のある学習になりうる(汎化能力を持つ)のか?」、「膨大な数のパラメータ学習がなぜうまく収束するのか」など、深層学習には大きな謎があります。この根本的な疑問を解決する道筋が上の研究から見えてきます。実用上大成功を収めているとはいえ、深層ニューラルネットワークを単なるブラックボックスとしてではなく、中身を理解して制御できるようになることは実用の観点からも重要です。さらにここから生物系での様々な興味深い問題(遺伝子制御ネットワーク、アロステリック効果など)への関連も見えてきます。

    H. Yoshino, "From complex glass to simple liquid: layering transitions in deep neural networks", 40 years of Replica Symmetry Breaking (2019/09@Sapienza Univ. of Rome) 講演(スライドと動画)

    深層学習と物理2019@京大基研 (DLAP2019)講演予定 DLAP2019

    非線形レオロジー、非線形電気伝導、...

    磁場中ジョセフソン接合配列の問題は、 フラストレート磁性の問題から、ジャミング転移、摩擦転移、非線形レオロジーにまで関連する 興味深い問題です。我々は、理論・シミュレーションの両面から解析を行ってきました。

    (動画)外部電流に駆動された磁場中ジョセフソン接合配列での磁束量子、 電流(横・縦方向)の様子 (Yoshino-Nogawa-Kim 2009)より

    スピングラスとその関連系

    スピングラス、またこれに類似する一群の系では、ガラス相はギリギリの安定性しか持たない大変奇妙な相で、わずかな温度などの変化に対して、安定なコンフィグレーションがガラガラと変化してしまう(静的カオス効果)と予想されています。これにガラス系特有のスローダイナミックスが加わることにより、若返り・メモリー効果などの興味深い現象が起きていると考えられています。これらの問題について、さまざまな角度から、理論研究、数値実験、また実験グループとの共同研究を行ってきました。

    動的メモリーの現象論 (Yoshino-Lemaitre-Bouchaud 2001)

    実験グループとの共同研究 (Jonsson-Mathieu-Nordblad-Yoshino-Katori-Ito 2004)

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