ウィルスとアルコール「消毒」と「殺菌」 (追記あり 11/9)

twitterで話題になったので、いちおう書いておきます

インフルエンザ・ウィルスは脂質二重膜(細胞膜と同じ・・・というか、そのもの)に包まれているので、アルコールで破壊できる。バクテリアの細胞膜(これは細胞壁と呼ぶのが正しい?)を破壊するのと同じ。したがって、インフルエンザ・ウィルスにはアルコール消毒が有効。ウィルスを「殺菌」するというのは、言葉としては間違っているが、効果としては間違っていない。

いっぽう、多くのウィルスは脂質二重膜ではなくタンパク質からなるカプシドに包まれているので、アルコールでは破壊されない。
(追記 11/8:
えー、読み直すとウィルスの構造についての記述がめちゃめちゃ不正確ですね。カプシドの外側に細胞膜のエンベロープで、カプシドがないわけではありません)

だから、インフルエンザ・ウィルスの例をもって、「ウィルス対策にはアルコール消毒」などと考えてはだめ。
基本的にはアルコールは「殺菌」するものだと思う。それに対し、ウィルスは菌ではない。

いや、僕もインフルエンザ・ウィルスのエンベロープが脂質二重膜だということを今回の新型騒ぎで初めて知りました。最初は「ウィルスにアルコール消毒だなんて、なんにもわかってないじゃん」と思っていたのですが、わかっていないのは自分のほうだったよ。

[追記 11/9]
ウィルスとバクテリアの破壊メカニズムについて指摘をいただきました。
インフルエンザ・ウィルスについては、膜融合で感染するし、感染に必要なHAやNAは膜上に生えてるので、いずれにしても膜を破壊すれば感染できなくなるのだと考えていたのですが、それでよいかしら。ウィルス本体はRNAなので、これを破壊するのはまた別の問題ですね。
バクテリアのほうは代謝があり、普通の意味で「生きて」いるから、細胞壁を破壊すれば死ぬんじゃないかなあ程度のぼんやりした理解で、こちらのほうがいい加減すぎるかもしれません。

― posted by きくち at 02:28 am commentComment [26] pingTrackBack [2]

この記事に対するコメント[26件]

1. 通りすがりの微生物屋 — November 8, 2009 @10:08:06

いつも楽しく拝見させていただいております。
ちょっと気になることがあったので通りすがりに一言書かせていただきました。
それは、塩化ベンザルコニウム(いわゆる逆性石鹸)配合の消毒薬がドラッグストアーなんかでインフルエンザ対策といって山積みになってることです。アルコール系より安く、売り切れにならずにおいてあるので、何も知らない人はこれを買ってゆくでしょう。もちろんこれもウイルスにはほとんど効果なし。

インフルエンザはある意味可愛いもんです。エタノールで制御できるので。ノロなんかは”たち”が悪い。エンベロープのないウイルスにも効果のある塩素なんかの消毒剤は、どこにでもシュッシュってな具合にはいかず、とても使いにくいので。

おじゃまじました。

Owner Comment きくち  November 8, 2009 @13:25:37

近所の店の店頭に「ご自由にお使いください」と置いてあったポンプ式のやつは、「アルコール系」と書いてあるのに、主成分は塩化ベンザルコニウムでした。

3. ふぃっしゅ — November 8, 2009 @13:37:51

空気清浄機のところで「ウィルスを死滅」と書いたのですが、ウィルスに対してはどのような表現が正しいのか、自分の中であいまいであったことに気づきました。

ただ、「殺菌」と言う言葉は、「滅菌」「消毒」をあわせた表現で、微生物(細菌、真菌、ウィルス)に対して使用されるので、ウィルスに対しても問題ない使い方のようにも思われますが。


>通りすがりの微生物屋さんへ
塩化ベンザルコニウムの抗菌スペクトルでは、結核菌およびウィルスには効果がないということで、病院でもウィルスに対しては別の消毒薬を使用しています。
ところが「院内感染予防対策のための滅菌・消毒・洗浄ハンドブックの中に「消毒薬の各種ウィルスに対する効果」の一覧表が載っているのですが、インフルエンザウィルスに対して塩化ベンザルコニウムが「著効(失活率 99.9%以上)」となっています。
原典がお手元にないのに申し訳ありませんが、これは何を意味することかご存知でしたら、教えていただけませんか?

Owner Comment きくち  November 8, 2009 @14:13:36

wikipediaには塩化ベンザルコニウムの効果として「細胞膜のタンパク質を変性させる」と書かれているので、インフルエンザ・ウィルスのエンベロープも破壊できるのでしょう。インフルエンザ・ウィルスは宿主の細胞膜をエンベロープに使っているので、普通の細胞膜なのですよね。

したがって、塩化ベンザルコニウムもアルコールと同様、たいていのウィルスには無効だが、インフルエンザ・ウィルスには有効ということかと思います。

僕も細胞膜と細胞壁をまったくでたらめに使っていてお恥ずかしいのですけど、菌の外側は細胞壁ですね。結核菌は細胞壁の構成物質が特別だから、普通の消毒薬が効かないようですね。

UpOwner Comment きくち  November 8, 2009 @14:47:50

んで、ウィルスにはよく「不活化」って言葉が使われるみたいですね。
ウィルスなんて、生きてるとは言えないから、「死滅」は変かも。だったら「殺菌」も変かも。

もっとも、ウィルスを「生きている」と考えるかどうかは、かなり思想的な問題なので、議論する平行線に終わる可能性高し。

6. sfこと古谷俊一 Website — November 8, 2009 @14:13:11

CiNiiでみかけたアブストラクトによると、エンベロープを持つウイルスは界面活性剤でも不活性化されるそうですね。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006454625/Link

日本薬局方でも塩化ベンザルコニウム10%溶液(逆性石鹸)は
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/650037_2616700Q1581_1_01.pdfLink
> ウイルスの一部(アデノウイルス5型、ポリオウイルス2型、インフルエンザウイルスA香港型、ムンプスウイルス、単純ヘルペスウイルス1型)に対し不活化効果を示すが、炭疽菌、破傷風菌などの芽胞形成細菌に対する殺菌効果は期待できない。
と書かれています。

鳥インフルエンザ対策で、鶏小屋の消毒用に推奨されていたりもしました。

7. eラーニング Website — November 8, 2009 @18:05:29

先週中ごろから、風邪だか、インフルエンザだか分かりませんが、体調崩しております。ウィルスは一般的にはアルコール消毒は意味がないが、インフルエンザの場合は特例的に効果があるんですね。勉強になりました はてなより

8. TAKESAN — November 8, 2009 @18:32:23

今晩は。
 
『化学』の最新号が新型インフルエンザの特集で、勉強になりました。と言っても、ざっと流し読みした程度ですが。
 
って、オフィシャルサイトでかなりの部分読めるんですね。知らなかった…。
http://www.kagakudojin.co.jp/kagaku/200911.html?200911&11Link

Owner Comment きくち  November 8, 2009 @19:00:12

おお、ほんとうだ。これはよいですね。

僕はかなりいい加減に書いてるなあ

Up10. 元生物屋 — November 8, 2009 @23:06:03

お恥ずかしながら、自分も同じ間違いをしていました。:P
(オスバン最強!と信じ切っていましたw)

11. 鬼院仙人 — November 9, 2009 @00:30:05

エイズウィルスについて、アルコール「消毒」は有効なんでしょうかね?
ちょっと気になったので・・・。

Owner Comment きくち  November 9, 2009 @01:11:15

HIVも細胞膜由来のエンベロープを持つから、アルコールが効くはずですね。
HIVは本来予防しやすいウィルスのはずです。それなのに、先進国中でAIDSが増えているのは日本だけだといわれるのは、その簡単な予防すらしないからでしょう(薬害AIDSのようなものはもちろん別です)。

13. TAKESAN — November 9, 2009 @01:41:39

調べた所、こちらでちょっと触れられていました⇒http://micro.fhw.oka-pu.ac.jp/microbiology/sterilization/alchohol.htmlLink

14. 生物系だけど… — November 9, 2009 @00:48:20

えっと。

本当のところ、作用機序が解明されているかは知りませんが、
僕の聞いた噂レベルの話だと、

インフルエンザウイルスがエタノールで不活化される原理は、
脂質二重層が溶けて洗い流されるから、で、
エタノールだと100%の濃度が一番効く

細菌などの場合、「消毒」される原理は
「水と置き換わって、その後揮発する」という脱水作用や
タンパク質の構造の不安定化の寄与もあり、
細胞壁も細胞膜も越えて、細胞質のタンパク質まで浸透して作用する
そのため、70%を中心とした「水となじみやすい」エタノールの方が効く

エンベロープ(脂質二重層)を持たないウイルスにも
アルコールで不活化されるものがある

と聞いていましたが、医学系ではないので具体的なデータはなく、
たんなる噂レベルの話です。。。。

とりあえず、単に脂質二重層、という話では無かったような…

(でも細菌の70%も細胞壁を越えるため、と解釈すれば、
 細胞膜を溶かす話にできるのか…。)

UpOwner Comment きくち  November 9, 2009 @02:22:05

ああ、メカニズムが違いますか。あんまり考えてなかったです。

インフルエンザ・ウィルスの場合は、感染メカニズムが膜融合ですし、HAやらNAやらもエンベロープ表面にあるので、エンベロープを壊せば不活化するんだろうという程度の理解です。不活化というか、感染能を失うということかと思いますが。

どのみちウィルスの本体は単なるRNAなので、そう簡単には壊れないのでしょうから、エンベロープがなくなったやつでも、無理やり細胞内にいれたら増殖するんじゃないかと想像してますけど、どうなんでしょ

16. くぁz — November 9, 2009 @03:15:13

巷で売られているジェル型のアルコール洗浄剤に
「細菌・ウイルスの消毒に」
とか宣伝文句が書かれていて
「あれっ、アルコールってウイルスにも有効だっけ?」
と思っていたところなので、この記事はためになりました。

17. トムトム — November 9, 2009 @08:09:56

この分野で一番よく使われているウエ○パスも最近ではメーカーHPで100mL中に塩化ベンザルコニウム0.2gとエタノール83mLを含むと書いてありますが、少し前までエタノールの含有量ははっきり書いてありませんでした。
箱を見ても、組成は塩化ベンザルコニウムしか書いてありません。
エタノールは添加物扱いだったんですね。
他の製品でも同じような表記の物があるかと思います。

18. hrgy — November 9, 2009 @18:14:36

google インフルトレンド

http://www.google.org/flutrends/intl/ja/jp/Link
>Google では、特定の検索キーワードでの検索数がインフルエンザの流行の指標となることを発見しました。Google インフル トレンドでは Google 検索の集計データを使用してインフルエンザの流行を予測します。

なんだか,だいぶ自信ありげなイントロ文です.

http://www.google.org/flutrends/intl/ja/about/how.htmlLink
過去のデータですが,実際,なんでこんなに良く合うのでしょう?

http://www.nature.com/nature/journal/v457/n7232/full/nature07634.htmlLink
でも,ちゃんと,Nature 誌に論文を発表しているし,
自信作の研究だと思います.

Owner Comment きくち  November 9, 2009 @18:22:52

へえ、これはすごい。
どんな単語が検索されているかを見るだけで、インフルエンザの流行がわかるというわけですか。

Up20. hrgy — November 9, 2009 @18:31:36

>どんな単語が検索されているかを見るだけで、インフルエンザの流行がわかるというわけですか。

そうみたいですね.急性疾患ともなると,対処法など
調べるため,ググる習慣が定着しているのでしょうか.

21. だるまてんぐ — November 11, 2009 @16:41:59

専門的な話とは違いますが、かつて作られた科学映画のライブラリをネット上で放映されています。細菌やウィルス、免疫など取り上げている科学映画もあります。

NPO科学映像館
http://www.kagakueizo.org/Link

日映科学映画製作所
http://www.nichieikagaku.com/Link
日映さんはユーチューブを利用して配信されていますね。


楽しくわかりやすく学べて非常によかったので、ご紹介させていただきます。参考になれば。

22. y_tambe — November 15, 2009 @14:35:18

>>インフルエンザ・ウィルスについては、膜融合で感染するし、感染に必要なHAやNAは膜上に生えてるので、いずれにしても膜を破壊すれば感染できなくなるのだと考えていたのですが、それでよいかしら。ウィルス本体はRNAなので、これを破壊するのはまた別の問題ですね。

アルコールがインフルエンザウイルスを失活させる機構は、ほぼそれで合っていると考えてよろしいかと。全般的には、#14の理解で合ってて、70-80%エタノールの方が、タンパク質変性による効果も得られるため、効果は高いです。塩化ベンザルコニウム(オスバンなどの主成分)は、いわゆる逆性石鹸の一つでなので、その界面活性作用によりやはり膜を傷害しますが、タンパク質変性効果もあるようです(加えて、正に荷電してるので、普通石けんよりも、負に荷電しているウイルスや細菌に集積しやすい)。エタノールとオスバンでは、それぞれの作用点に若干違いがあるため、相乗的な効果を期待して、合剤にしたのがウエルパスです。ただし、エタノールによる速乾性でスクラブとして使えて、不揮発性のオスバンにより効果が少し持続する、というのが、実際に現場で使われる理由としては大きいかもしれません。

あと細かい指摘をいくつか。
エンベロープを持つウイルスには、確かに膜融合で細胞に侵入するものが多いのですが(ヘルペスウイルスやHIVなど)、インフルエンザウイルス(←日本語だとこの表記で。中点の使用や「ウィルス」表記は推奨されません)の場合は事情が異なります。むしろエンベロープを持たないウイルスと同様に、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれる形で侵入すると考えられてます。

#この辺りは、ウィキペディアの「インフルエンザウイルス」の項にも以前書きましたので参考になれば…やや専門的すぎる内容かもしれませんが。

それから、生体内/環境中においてはRNAは非常に不安定です。というのは、ほとんどすべての生物は非常に安定なRNaseを持ってるからです(オートクレーブ処理でも分解されないので、RNAを用いる実験にはDEPC水など特殊処理した水を用います)。

また、ほとんどのウイルスは核酸のみでは、細胞内に侵入しても感染することができません。核酸だけで感染可能なものもありますが、これらは「感染性核酸」と呼ばれ、RNAウイルスではトガウイルス科(風疹など)やピコルナウイルス科(ポリオなど)、DNAウイルスではいわゆるパポーバウイルス科(パピローマ、ポリオーマ、パルボ)に属するものに含まれてます。ただし、これらも人為的に細胞内に導入しないと、核酸だけで感染は成立しません。

インフルエンザウイルスは-鎖のRNAウイルスで、それ自体がmRNAとしては機能せず、相補的な+鎖RNAを作らなければなりません。-鎖RNAから+鎖RNAを作る酵素は宿主には存在しませんので、それらの酵素も一緒に持ち込まないと感染できないのです(この辺りを担うのが、インフルエンザウイルスの各ゲノム分節にくっ付いてる、PA, PB1, PB2です)。

したがって、インフルエンザウイルスの場合、RNAだけで感染が成立することはありえませんので、エンベロープが破壊されれば「まず問題ない」と言って、差し支えないです。

Owner Comment きくち  November 16, 2009 @20:49:04

おお、ありがとうございます
いろいろいい加減なことを書いております(^^;
勉強になります

24. y_tambe — November 15, 2009 @15:40:59

それからHIVについてですが、こちらの場合は消毒がどうこうというより、感染経路の問題が大きいです。

#主なルートは粘膜を介した接触感染(特に性行為感染)か血液感染(院内だと針刺し事故とか)なので、途中でアルコール消毒などは施しようがありません。

そもそも「環境中にむき出しの状態にあるウイルス粒子」だけでは、ほとんど感染力がないと言ってもいいくらいに「環境中では弱い」ウイルスです。近年の増加傾向は、不特定多数との(コンドーム等を付けない)性交渉が直接の要因ですが、その背景にあるいちばんの原因は、「日本国民の、エイズに対する危機意識の低さ」だと言われてます。

UpOwner Comment きくち  November 16, 2009 @20:54:39

HIVはウィルスとしては弱いのに日本で増えている理由は、「意識の低さ」だと思います。薬害エイズは別として、性感染症としてのエイズはむしろ簡単に防げる病気のはずだと思うと、腹立たしいですね。世界には、タイやアフリカ諸国のように貧困と関連してエイズが増える国があるわけですが、日本でそれは通らんでしょう。

26. 氷河期の星 — January 23, 2010 @19:28:04

きくちさんの記事や皆様のコメントはとても勉強になります。
ところでインフルエンザを予防するには

飛沫感染--->マスク、うがい。
接触感染--->手洗い、洗顔、物の消毒や清掃、洗濯、8時間以上の放置や日干し。
免疫を高める-->Aソ連型(H1N1)、A香港型(H3N2)、B型の3種類の混合ワクチンの接種。
また、適切な栄養、睡眠、運動、お笑い、体を冷やさない。

http://www.city.saitama.jp/www/contents/1245725977935/index.htmlLink
http://influenza.elan.ne.jp/action/pre_vaccine.phpLink

といったところでしょうか?

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