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2013/11/19 空間線量とか個人線量とか、何を測っているのかな [kikulog 638]

2013/11/19 空間線量とか個人線量とか、何を測っているのかな [kikulog 638]

カテゴリー: 放射能問題

前に書いた「1mSvとか20mSvとか」の補足。勉強会やツイッターで教えてもらったことのまとめです

最近のニュースで避難地区への帰還を認めるための条件として被曝量の数字が挙っているのだけど(年間20mSv)、実効線量とか空間線量とか個人線量とか、いろいろと混乱が起きているので、なるべくやさしく書いてみようと思う。どうかなあ、わかりやすいかなあ

大前提として、本当に知りたいのは何かを考えてみよう。そこで生活すると被曝によるリスクはどれくらいなのかを知りたいのだから、つまり知りたいのは、その場所で生活するとどれくらい被曝するのかだ。たとえば一年間そこで生活したら被曝量はどれくらいになるのかを知っておきたい。被曝量とひとことで言っても、実はいろいろあるのだけど、被曝量を知りたいのはリスクを考えるためだとすると、リスクと関係がつく被曝量は「実効線量」と呼ばれているものだ。これは要するにからだがどれくらいの放射線を吸収するかを表していると思えばいい。だから、本当に知りたいものは一年間の実効線量だ。これを「本当の被曝量」とでも呼んでおこう。

そのためには、積算線量計というものを身につけて一年間生活してみるのがいちばん確実だ。電子式のものもあるし、ガラスバッジと呼ばれるものもある。どちらも「1cm個人線量当量」というものを測定する。実はこれはだいたい本当の被曝量に一致する。だから、積算線量計を身につけて測った被曝量が、本当の被曝量だと思えばいい。積算線量計を1週間身につけて、結果が30μSv(マイクロシーベルト)なら、その1週間に被曝した量は30μSvだったことになる。

しかし、それではその場で暮らしてみないと被曝量がわからないことになってしまう。いや、本当のことを言うと、実際そうなのだ。でも、それでは避難先から戻ろうかどうしようか考える役にはあまり立たないかもしれない。

行政がいろんな場所に据え付けているモニタリングポストとかリアルタイム線量測定システムとか、あるいは持ち運べる線量計(よくあるやつ。いろいろあるけど、とりあえず、サーベイメーターと呼んでおく)とか、そういうもので測るのは空間線量率、つまり「その場所の放射線の強さ」だ。これはひとりひとりの被曝量ではないことに注意しよう。あくまでも「場所」の量だ。

さて、モニタリングポストとリアルタイム線量測定システムは似てるけど、実は測っているものが違う。モニタリングポストはシーベルト毎時(Sv/h)ではなくグレイ毎時(Gy/h)という単位で放射線の強さを表示する。これ、「空気吸収線量率」といって、その場の空気が一時間にどれだけ放射線を吸収するかを測っている。人じゃなくて空気の吸収量だから、実は人間の被曝量とは違う。

いっぽう、リアルタイム線量測定システムとかサーベイメーターとかは放射線の強さをシーベルト毎時(Sv/h)の単位で表す。これは、「1cm周辺線量当量率」といって、人間がその場所に1時間いるとどれくらい被曝するかを表している。じゃあ、積算線量計を身につけてリアルタイム線量測定システムの横に一時間立っていたら、積算線量計で測る被曝量はリアルタイム線量測定システムの1時間分になるのだろうか。だいたい同じになる。だいたいは同じなだけど、実は少し違っていて、リアルタイム線量測定システムのほうが40%くらい大きな数字になる。これは何かが間違っているのではなくて、1cm周辺線量当量と1cm個人線量当量とは少し違うものだからそうなってしまうだけだ。つまり、リアルタイム線量測定システムやサーベイメーターで測った放射線の強さから、その場所にいるときの被曝量を推測すると、本当の被曝量よりはちょっと大きめになる。

じゃあ、さっきのモニタリングポストはどうなのか。空気が吸収する放射線を測っているのだからなんの役にも立たないのかというとそういうわけではなくて、モニタリングポストの示すグレイ毎時(Gy/h)の数字は1cm周辺線量当量率より20%くらい小さい数字になる。

だから、実はモニタリングポストのグレイ毎時も人間が被曝する量の目安に使うことができる。ちょっと混乱してきたぞ。では、モニタリングポストのグレイ毎時は本当の被曝量よりも小さくなるのだろうか。ところがそうではなくて、実はこれもまた本当の被曝量よりは大きな数字になる。1cm線量当量率よりは小さいけど、そもそも1cm線量当量率が1時間当たりの本当の被曝量より大きいから、そんなことになってしまう。

実際、緊急時には1Gy/hを1Sv/hとみなしていいことになっている。ふだんは1Gy/hは0.8Sv/hとみなす。

関係をまとめるとこうだ。たとえば、モニタリングポストがある場所で積算線量計を身につけ、サーベイメーターをもって一時間立ってしたとしよう。すると、数字が小さい順に

積算線量計(ほぼ本当の被曝量) < モニタリングポスト < サーベイメーター

となる。本当の被曝量に近いのは積算線量計なので、それ以外はみな、それより大きな数字を表示することになる。

モニタリングポストの横でサーベイメーターで測定したらモニタリングポストの数字より大きな数字が出るからモニタリングポストはわざと数字を低く見せているという話をよく目にするけれども、それは低く見せているのではなくて、そもそも測っているものが違うからだ。しかも、モニタリングポストの数字もまだ本当の被曝量よりは大きい。

ところで、これはモニタリングポストやリアルタイム線量測定システムの横に立っている場合の話で、実のところモニタリングポストの横にずっと立っている人などいない。一日の生活といっても、家の中にいたり道路を歩いたり外で作業をしたりビルの中で仕事をしたりといろいろな場所にいるのだから、その場所その場所の放射線を受ける。積算線量計を身につけて測定できる本当の被曝量は、そういうさまざまな場所で受けた放射線による被曝を集計したものだ。だから、モニタリングポストの数字に時間を掛けても本当の被曝量にはならない。現在のやりかたでは、モニタリングポストの横に1日8時間滞在していて、残りの16時間は外よりも少し放射線の弱い家の中にいるものとして、1日の被曝量を計算している。そういう人にとっては本当に被曝量に近いだろうけど、そうでない生活パターンの人にとっては被曝量はずいぶんと違ってしまう

空間線量から被曝量を見積もるときの最大の問題がここで、中西準子さんは空間線量から出した被曝量は、(たいていの人にとって、という意味だと思うけれども)本当の被曝量の2倍以上大きいはずだと言っておられるし、前に紹介したテレビユー福島社員の例では3から4倍くらい大きく出ているようだ。本当の被曝量が知りたければ、やはりできるだけ実際の生活に即した測定をしたほうがいいわけだ。

学校は放射線をよく遮蔽するので、学校の中に長くいる子どもの被曝量は少ないと言われている。もちろん空間線量が自然放射線量に近づくに連れてこの差は小さくなっていく。自然放射線程度の放射線量では、室内のほうが放射線が強いということもありうる(建材から出る)

長くいる場所の放射線をサーベイメーターで測って、ここに何時間いるから何μSv、ここに何時間いるから何μSvと実際の生活パターンに応じて空間線量を足していけば、現実の被曝量に近い数字が計算できるはずだ。ただし、サーベイメーターなので、本当の被曝量よりも何割か大きな数字になるに違いない。この機会に、自分の生活パターンはどういうものなのか考えてみるのもいいと思う

[注] 実効線量を本当に測ることはできない。1cm個人線量当量が実効線量にほぼ一致するのは、ある意味、「たまたま」。どんな場合にでもそうなるわけではなくて、今のように地面に放射性物質が散らばっていていろんな方向からγ線が飛んでくるときにはそうなる。実効線量が測れないので、その代わりに「測れる量」として1cm個人線量当量や1cm周辺線量当量というものが決められている