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2013/10/31 論文: Phase transition in traffic jam experiment on a circuit [kikulog637]
2013/10/24 論文: Robustness leads close to the edge of chaos in coupled map networks: toward the understanding of biological networks [kikulog636]
2013/10/23 年間1mSvとか20mSvとかについて[kikulog635]
2013/10/21 EMの討論会のこと[kikulog634]

2013/10/31 論文: Phase transition in traffic jam experiment on a circuit [kikulog637]

カテゴリー: 日 記

名古屋ドームで行った渋滞実験の最初の論文が出ました。実験は2009年12月に行ったものなので、もうずいぶん経ってしまいました。たまに各地から集まってはちょっと論文を書くというのを続けていたら、こうなりました。

以前の渋滞実験の論文では「ボトルネックのない円周を走っても交通渋滞は起きるよ」ということを示しただけで終わりましたが、今回の実験は条件を整えて(屋内に設定した円、まったく同じ車種)、車の密度を変えると交通流がどのように変わるのかを時間をかけて調べたものです。結論としては、密度を上げていくと自由流から渋滞への相転移が見られ、高速道路で観測されるいわゆる基本図とほぼ同じものが描けることがわかりました。密度一定の条件下で、密度をコントロールパラメーターとしている点が高速道路と違います。ボトルネックがなくても臨界密度を超えると渋滞状態に転移することが実験で示されたと思います。

物理実験のようにきれいな実験ではないので、本当にどこまでが示されたのかについては、議論があるところだと思いますが、前例のない実験なので今回はこれで充分でしょう。

open accessの論文で、誰でもダウンロードできます

Phase transition in traffic jam experiment on a circuit

Shin-ichi Tadaki, Macoto Kikuchi, Minoru Fukui, Akihiro Nakayama, Katsuhiro Nishinari, Akihiro Shibata, Yuki Sugiyama, Taturu Yosida and Satoshi Yukawa

2013 New J. Phys. 15 103034

doi:10.1088/1367-2630/15/10/103034

http://iopscience.iop.org/1367-2630/15/10/103034/article

Abstract:

The emergence of a traffic jam is considered to be a dynamical phase transition in a physics point of view; traffic flow becomes unstable and changes phase into a traffic jam when the car density exceeds a critical value. In order to verify this view, we have been performing a series of circuit experiments. In our previous work (2008 New J. Phys. 10 033001), we demonstrated that a traffic jam emerges even in the absence of bottlenecks at a certain high density. In this study, we performed a larger indoor circuit experiment in the Nagoya Dome in which the positions of cars were observed using a high-resolution laser scanner. Over a series of sessions at various values of density, we found that jammed flow occurred at high densities, whereas free flow was conserved at low densities. We also found indications of metastability at an intermediate density. The critical density is estimated by analyzing the fluctuations in speed and the density–flow relation. The value of this critical density is consistent with that observed on real expressways. This experiment provides strong support for physical interpretations of the emergence of traffic jams as a dynamical phase transition.


[追記]

NatureのResearch Highlightsで紹介されました

http://www.nature.com/nature/journal/v503/n7475/full/503168a.html


短い記事ですけど"Traffic jams follow the laws of physics"というタイトルはなかなかいいかなと思います


2013/10/24 論文: Robustness leads close to the edge of chaos in coupled map networks: toward the understanding of biological networks [kikulog636]

カテゴリー: 日 記

5月に出てた論文なんですけど、書いてませんでした。

今、東大の金子研にいる斎藤稔君が博士課程でやった研究のまとめです。

遺伝子制御ネットワークを念頭において、「変異に対する頑健性」だけを要求すると「カオスの縁」に位置するネットワークが自発的に生じるというシナリオを提示しています。

面白い仕事だと、僕は思います。

詳しくは斎藤君をセミナーに呼んで、聞いてください。

Open Accessなので誰でもダウンロードできます。タイトルでちょっと遊んでいます。

New J. Phys. 15 053037 doi:10.1088/1367-2630/15/5/053037

http://iopscience.iop.org/1367-2630/15/5/053037/

Robustness leads close to the edge of chaos in coupled map networks: toward the understanding of biological networks

Nen Saito and Macoto Kikuchi

Abstract:

Dynamics in biological networks are, in general, robust against several perturbations. We investigate a coupled map network as a model motivated by gene regulatory networks and design systems that are robust against phenotypic perturbations (perturbations in dynamics), as well as systems that are robust against mutation (perturbations in network structure). To achieve such a design, we apply a multicanonical Monte Carlo method. Analysis based on the maximum Lyapunov exponent and parameter sensitivity shows that systems with marginal stability, which are regarded as systems at the edge of chaos, emerge when robustness against network perturbations is required. This emergence of the edge of chaos is a self-organization phenomenon and does not need a fine tuning of parameters.


2013/10/23 年間1mSvとか20mSvとかについて[kikulog635]

カテゴリー: 放射能問題

メモ

国が除染目標とする年間追加被曝1mSvは本来は将来目標。

これはもう当たり前になったとは思うけれども、あくまでも「追加被曝」なので事故前のバックグラウンドは引いたもの。

ICRPは平常時の上限として「追加被曝年間1mSv」としているが、これは要するに50年そこに住んでいても追加被曝は50mSvに留まるという意味と、自然被曝の地域差程度という意味がある。特に東日本はもともと自然放射線量が少ないので、年間1mSv追加しても、ヨーロッパやアジアにはそれよりも被曝量の多い地域がたくさんある。

この1mSvはあくまでも単に「切りのいい数字」であることには注意したい。シーベルトという単位で切りのいい数字というだけなので、違う単位を使っていれば、また違う基準になったはずのもの。あくまでも「だいたいこのくらい」という決め方をしただけだということは頭にいれておいていいだろう。もちろん基準としては数値を決めるのだけど、じゃあそれを少しでも超えたらいけないのかといえば、そういうたぐいの数字ではない。

この年間追加被曝1mSvは本当なら内部被曝と外部被曝を合わせた実効線量であるべきものなのだけども、除染目標は空間線量率で0.23μSv/h(バックグラウンド0.04に0.19を上乗せ)という計算になっている。これにはいろいろな問題がある。ひとつには、0.23というとまるで有効数字ふた桁のように聞こえてしまう点で、実際、0.24ならだめなのかという馬鹿げた議論になってしまう。上で述べたように1mSvが「切りのいい数字」にすぎないうえに、バックグラウンド0.04というのがまたただの平均的な数字に過ぎないのだから、ここで0.23のふた桁目を厳格に考える意味はない。意味がないだけではなく、害があると言ってもいいと思う

今は食品中の放射性物質量は非常に低く抑えられている(生産者の大変な努力のおかげ)いて、多くの人の内部被曝は年間1mSvに比べてはるかに低い。だから、内部と外部合わせて1mSvというのを外部被曝だけで1mSvだとしても問題はないだろう。しかし、空間線量率から被曝量を出すところは相当まずいことになっている。政府は、その地域の空間線量率から、「1日8時間屋外にいて空間線量率通りに被曝、残りの16時間は屋内に滞在してそのときの線量率は屋外の0.4倍」と決めうちで計算したものを被曝量としている。これが実効線量だと思っているのかどうか、あまりよくわからない。しかし、これは被曝量をかなり過大評価しているらしいということはわかってきている。2011年にテレビユー福島の社員34人が1年間積算線量計をつけたデータ(早野さんの資料にこれを含めてほかにもいろいろなデータが出ているので、見てください http://www.tuf.co.jp/pdf/2013_09_01_hayano.pdf )によれば、2011年の福島でもバックグラウンド含んで1年間で平均1.3mSv程度、最大の人でも2mSvちょっとと、モニタリングポストの線量から推定される被曝量の1/4程度になっている。

これは、空間線量率から外部被曝量の推定法に問題があることを示している

ちなみに、モニタリングポストとサーベイメーターと個人の積算線量計は実は違うものを測っているので、同じ場所で測っても数値は違う。測っているものも違うし、校正条件も違う。僕も参加した勉強会まとめ( http://togetter.com/li/564491 )の最後のほうに@clear_wtさんがまとめられた、いろいろな測定量と実効線量の関係の図があるので、見てください( https://twitter.com/clear_wt/status/380269805825048576/photo/1 )。モニタリングポストの数値はわざと低く表示しているとかいう陰謀論もあるんだけど、そうではなくて、測っている量が違うから。そして、サーベイメーターやリアルタイム線量測定システムが表示する1cm周辺線量当量率は、今のように周囲のあらゆる方向から放射線が飛んでくる状況では実効線量率よりも30%ほど大きな数値になることもわかる。いっぽう、積算線量計は校正条件がサーベイメーターと違うために、今の状況ではたまたまほぼ実効線量と一致する数値を出す。まあ、難しいことは考えずに、いろんな測定値は30%やそこらは誤差のうちと思ってもいいと思う。しかも、多くは被曝量を過大評価していることにも注意。積算線量計で測った個人線量が各自の実効線量そのものに近いわけで、それはそれですっきりしている

いずれにしても、空間線量率からの実効線量の推定は数倍の過大評価であることと、基準は本来、個人の実効線量に基づくべきであることは知っておきたい

で、今は年間20mSv以上のところは避難しているわけだけれども(この20mSv/yはICRP勧告に書かれている緊急時被曝状況の下限から取ってきた数字で、これももちろん「切りのいい数値」にすぎない)、この数値は空間線量率に基づいているのでおそらくは数倍の過大評価と思われる。年間20mSvとされているところも、個人の実効線量をきちんと測れば、数mSvなのではないだろうか。

半端になったので、あとでまた書き足したり、書き直したりします。たぶん

宣伝ですけど、連続した数値のどこかに「えいやっ」と線を引く話は「科学と神秘のあいだ」でも一章割いて書きました。

[追記12/10/30]

前に見ていた文章が見つかったので、追記。平成23年12月22日付けで原子力委員会に出された「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」( http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2012/siryo02/siryo1-3.pdf )から、避難区域設定時の20mSv/yは過大評価だったことについて書かれた部分を引用しておきます。この文章は現存被曝状況や発ガンリスクなどについても整理されているので、読んでみるとよいと思います

..............

今回、政府は避難区域設定の防護措置を講じる際に、ICRPが提言する緊 急時被ばく状況の参考レベルの範囲(年間 20 から 100 ミリシーベルト)のう ち、安全性の観点から最も厳しい値をとって、年間 20 ミリシーベルトを採用 している。しかし、人の被ばく線量の評価に当たっては安全性を重視したモ デルを採用しているため、ほとんどの住民の方々の事故後一年間の実際の被 ばく線量は、20 ミリシーベルトよりも小さくなると考えられる。

イ)具体的には、外部被ばくについて、福島市における子ども・妊婦 36,478 人を個人線量計を用いて測定した結果、子ども・妊婦の1ヶ月間(本年9月) の追加的な被ばく線量は 0.1 ミリシーベルト以下が約8割を占めた(平成 23 年 11 月 1 日福島市災害対策本部発表資料)。一方、福島市の空間線量率は毎時約 0.92 マイクロシーベルトであり、この値から避難区域の設定の 際に行った方法により被ばく線量を推計すると、年間約 4.8 ミリシーベル ト、月間約 0.4 ミリシーベルトに相当する。これらの結果から、単純に比 較すれば、福島市における実際の被ばく線量の測定値は推計値の4分の1 程度となる。

ロ)また、文部科学省が行った、児童を代表する教職員に関する個人線量計に よる測定結果では、屋内・屋外の空間線量率にそれぞれの滞在時間を掛け て推計した被ばく線量に対し、実測値は平均で 0.8 倍になっている。(「簡 易型積算線量計によるモニタリング実施結果(その4)(概要)」(平成 23年6月23日文部科学省))

ハ) 福島県が実施している「県民健康管理調査」の先行調査地域(川俣町(山 木屋地区)、浪江町、飯舘村)の住民のうち、1,589名(放射線業務従事者 を除く。)の事故後4ヶ月間の累積外部被ばく線量を、実際の行動記録に 基づき推計したところ、1ミリシーベルト未満が998名(62.8%)、5ミリ シーベルト未満が累計で1,547名(97.4%)、10ミリシーベルト未満が累計 で1,585名(99.7%)、10ミリシーベルト超は4名で、最大は14.5ミリシー ベルト(1名)であった。

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2013/10/21 EMの討論会のこと[kikulog634]

カテゴリー: ニセ科学,EM菌

10/13に学習院中高等科を会場にジャパン・スケプティクス主催でEMに関する討論会が行われました。

EMはこのブログでも何度も取り上げていますが、基本的には農業用の微生物資材のひとつで、一般名ではなく商品名のようです。しかし、農業用資材であることを超えて、口蹄疫の流行を食い止めたり、河川や湖を浄化したり、放射性物質を除染したりできるなどと主張されています。いくらか効果のある使い道はあるでしょうが、今挙げたような点については効果が期待できないばかりか、害になりかねない(まともな対策の邪魔になる)という問題があります。元琉球大学農学部の比嘉照夫教授が提唱して、自らそういった一種の万能性を宣伝していることから、僕は「ニセ科学」のひとつの典型例と考えています。

今回の討論会はそのEMを懐疑論の立場から討論するもの、という趣旨だったのだと思います。

小波秀雄さんの概論、朝日新聞の長野剛さんから青森でEMを取材したときの報告、ベントスがご専門の神田外語大学・飯島明子さんからEMが河川を浄化する役に立たないことの科学的説明、最後にパネルディスカッションがあり、僕はパネリストとして参加しました。

長野さんの報告は大変面白く、また飯島さんの講演は有機物による水質汚染のメカニズムについて勉強になりました。小波さんの概論は、EMというものをあまり詳しく知らない方にはよいまとめだったかなと思います。問題はそういう方がおられたのかどうかですが

宣伝が今ひとつ行き届いていなかったのか、参加者はいささかさびしい人数で、基本的にEMに批判的な方々が集まったように見受けられました。

なんのための会だったのかと何かが達成できたのかを考えると、よくわかりません。

EMに批判的な人ばかりが集まって、そうだそうだと言っていても仕方ないっちゃあ仕方ないです。

もっとも、この手の会は「届けたい人に届かない」のが常なので、そこはどのみち手詰まりなのかもしれないですが、でももうちょっと宣伝のしかたがあったかなあ。なかったかなあ。どうかなあ。

むずかしいよね

パネリストだったけど、あんまり話すことはありませんでした。すみません

EM除染の話ももっと大きくとりあげて、福島県内でやったらよかったんじゃないかなあ

福島県内でEMがどれくらい使われているのか(特に除染のために)、正直実態がわかりません。使ってるのはほんの一部の人だよとも言われました。たぶん、そうなのでしょう。フジテレビがEM除染を否定的にとりあげたニュース番組が昨年放送されたのですが、残念ながら東京ローカルだったようです。実態をきちんと知りたいと思うものの、なかなかわからないですね。でも、「EM除染実験」みたいなのは実際に行われてはいます。

もちろんEMが放射性物質を無効化したりはしません。農作物に放射性セシウムが移行しないのはカリウムのおかげです。

EMと関係が深いNPO法人地球環境共生ネットワーク主催で11月に福島で開かれる第2回環境フォーラム「うつくしまEMパラダイス」はEM活用報告などを中心としたEM宣伝のイベントみたいなものですが、当初後援に名を連ねていた福島市が後援を取りやめました。よいことだと思います

EMは放射性物質に効果ありません。もちろん、EM-Xやらなんやらは内部被曝になんの効果もありません

なお、ジャパン・スケプティクスのサイトに講演内容のまとめがあります

http://www.skeptics.jp/news/63-em-symposium.html