201103のブログ

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2011/03/31 再臨界の噂について(再臨界していない)(4/20 追記あり)
2011/03/28 地震・津波・原発便乗ニセ科学
2011/03/22 911公開討論会
2011/03/21 細かいメモ(報道や発表、twitterなどで気になる「知識の混乱」)
2011/03/21 地震・津波・原発についての信頼できない情報源
2011/03/21 地震・津波・原発事故に関する信頼できそうな科学情報
2011/03/20 「健康にはただちに影響しない」とはなにか
2011/03/16 業務連絡: お元気ですか

2011/03/31 再臨界の噂について(再臨界していない)(4/20 追記あり)

カテゴリー: 放射能問題

さっき、「IAEAは、福島原発一号機が再臨界したかもしれないと30日の記者会見で語った」という噂がネットに流れているのを発見しました。

いろいろ、調べてみると、まず再臨界したかもしれないという記事はBloombergとその日本語版、およびそれを引用した記事しかありません。したがって、Bloombergだけがそれを伝えている。

30日のIAEAのBriefingは

http://www.iaea.org/press/?p=1852

ですが、ここには再臨界のことなど書かれていません。

Bloombergの記事は

......................................

Fukushima Atomic Fuel May Have Reached New Critcality, IAEA Says

By Jonathan Tirone

March 30 (Bloomberg) -- Fuel in reactors at the stricken

Fukushima Dai-Ichi nuclear power plant may have achieved “re-

criticality,” the International Atomic Energy Agency said today

at a press conference in Vienna.

“There is no final assessment,” IAEA nuclear safety

director Denis Flory said today. “This may happen locally and

possibly increase the releases.”

In a paper published yesterday, James Martin Center high-

energy physicist Ferenc Dalnoki-Veress said that Chlorine traces

and neutron beams reported in water samples taken from unit-1

pointed toward “localized criticality.”

.......................................

となっていて、どうも、Dalnoki-Veressという人の論文が関係あるらしい。

それは

http://lewis.armscontrolwonk.com/files/2011/03/Cause_of_the_high_Cl38_Radioactivity.pdf

です。これを読むと、要するにひとつは3/13から3日間で何度か中性子が検出されたのは再臨界だったのかもしれない、という話で、今現在の話ではないのですね。この中性子検出は検出回数も少なく、値も小さいし、どれくらいあてになるかわかりません。

もうひとつ、もっと重要なのは23日に測定されたCl38で、これも今現在の話ではありません。Dalnoki-Veress氏はこれを再臨界によると考えているようですが、データが正しかったとしても、再臨界ではない(ウランの自然崩壊の中性子で説明がつく)という解釈でよさそうです。なお、その後注水が海水から真水に切り替えられて、Cl38は検出されなくなりました。

おそらく、Bloombergの記者はこの論文についてIAEAの記者会見で質問して、IAEAは「局所的な再臨界がなかったとは言えないが、検証していない」と答えたのでしょう。そういう「ちょろっと再臨界」というのがどの程度ありうるものなのか、僕にはわかりません。

これが、断片的なニュースとしてブルームバーグの日本語サイトに

............................

3月30日(ブルームバーグ):国際原子力機関(IAEA)は30日のウィーンでの記者会見で、東京電力福島第1原子力発電について、「再臨界」した可能性があるとの見解を示した。

............................

と掲載され、それを読んで「すわ再臨界か!」とあわてた人たちが噂を流したようです。今現在再臨界だという話ではありません。

念のため、今、記事を書いたJonathan Tirone氏にも問い合わせてはいますが、まあ、結論は変わらないでしょう

本当に再臨界したなら、日本でまずニュースになりますよ。いくらなんでも、日本で発表される前にIAEAから発表されるはずはないと思いますよ。今ならね。

[追記]

Jonathan氏からの返事が来ました。すごく早いレスポンス

...............

The IAEA is engaged in a debate about whether recriticality occured and whether it poses an ongoing risk. The agency doesn't have complete information from Nisa/Tepco. The outstanding qeustions hinge on whether continuous nuetron monitoring is taking place at the plant and whether the hardened neutron detector inside the emergency core monitoring system is functioning. Without that information, scientists can only rely on the neutron pulse reports and chlorine 38 samples. I'm sorry I cannot provide further insight. I hope that you and your family are well and that this unfortunate episode comes quickly to an end.

..................

まあ、特に何かがあったというわけではないですね、やはり。

データが少ないから中性子とCl38くらいしか頼るものがないよね、って言っていますが、いずれにしても今現在臨界になっているという話ではないわけです

[追記]

結局、このニュース自体は「済んだ話」でした。これまでに再臨界があったわけではなく、これからもほぼありそうにないと思いますが

[追記 4/1]

「IAEAが再臨界の可能性を認めている」というたぐいの記事をよく見かけますが、IAEAの3/31の記者会見資料にも再臨界についての記述はありません(僕が見た限りでは。もし発見されたら、ご教示ください)

http://www.iaea.org/newscenter/news/tsunamiupdate01.html

再臨界を気にしているのはBloombergのニュースとそれを引用している記事だけということです。僕は現状の理解としてはこれで充分だと思いますが。

もちろん、再臨界は原理的にありえない話ではありません。いくつかシナリオはあると思います

[追記 4/1]

Nature.comがDalnoki-Veressの論文をとりあげました。

http://blogs.nature.com/news/thegreatbeyond/2011/04/fukushima_update_did_nuclear_c.html?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+news%2Frss%2Fthe_great_beyond+(The+Great+Beyond+-+Blog+Posts)

"There is growing evidence that uranium and plutonium fuel at the Fukushima nuclear plant may have continued nuclear fission chain reactions long after the reactors were shut down almost three weeks ago."と言ってますね。しかし、再臨界と考える人はいても、「ずっと続いていた」と思っている人はいないのではないかなあ

[追記 4/20]

ようやく、Cl38が出た測定データの再検討結果が出ました。Cl38もTe129も「検出限界未満」に訂正されたようです。

http://www.tepco.co.jp/cc/press/11042006-j.html

Cl38の検出について最初からおかしいと言っておられた早野さんが正しかった。

これで、このエントリーの「再臨界」の話は完全に終了でいいでしょうね


2011/03/28 地震・津波・原発便乗ニセ科学

カテゴリー: ニセ科学

既にホメオパシーの人たちが便乗で怪しい主張をしていますし、EMは以前から放射能にどうこうとか言っていますし、そういうのを集めておく場所を作りましょう


2011/03/22 911公開討論会

カテゴリー: 陰謀論,9.11陰謀論

3/19に行なわれた公開討論会のうち、僕のトークがyoutubeに公開されました。

http://taizo3.net/hietaro/2011/03/post-439.php

一ヶ所、マドリードのビルをイタリアのビルと言ってしまったのが痛恨。ほかにも問題あればご指摘ください

見ていただけばわかるように、細かいひとつひとつの事実をどうとかしようとは考えませんでした。「錯覚の科学」に時間を使ったりしているので、なにこれ、と思われるかもしれません。陰謀を信じる人には「ごまかしてる」と思われるでしょうねえ

他のかたのトーク等は公式なビデオがいずれyoutubeに公開されるはずです

[追記]

最後の討論できくちゆみさんから、飛行機がペンタゴンにぶつかったとして、翼はうしろに跳ね返されたのにエンジンがそのままビルに突入するなどということがあるのか、という意味の質問をされたのが印象的でした。虚をつかれたというか。


2011/03/21 細かいメモ(報道や発表、twitterなどで気になる「知識の混乱」)

カテゴリー: 放射能問題

[注意]ここで陰謀論の話をしないように。メモとして役に立たないコメントはどんどん消します。

そのうちまとめますが、メモ

主として知識の混乱についてですが、それ以外でもなにかあればコメントください。

注意すべき混乱、ありがちな誤解、あまり知られていないことなど。

科学に限りませんが、僕が気づくのは科学のことが多いので、それ中心になります。

単なる豆知識という面もあります

●ミリは1/1000(1000分の1)、マイクロは1/1000000(100万分の1)、ナノは1/1000000000(10億分の1)

[地震]

●モーメントマグニチュードは意外に知られていない

●マグニチュード(その地震のエネルギー)と震度(各地の揺れの大きさ)を混同している人もいるようだ。震度は場所ごとに違うが、マグニチュードはその地震についてひとつの数値

●震度の定義が1996年に改定されているので、それ以前の地震の震度と比較するときは注意が必要。ときおり、混乱が見られる

[原発・放射能・放射線・放射性物質]

●被爆(爆弾のほう)と被曝(さらされること)はいまだに混同される

●放射能・放射線・放射性物質の違い。放射性物質が放射線を出す。放射線を出す能力が放射能

●シーベルトとシーベルト毎時の違いを理解しない報道がいまだにある(長期の健康影響に利くのは累積値なのでシーベルト(Sv)、測定される強度はシーベルト毎時(Sv/h)。これはちょうど距離と速度の関係と同じ)

●原子炉からの放射線の広がり(原発からの距離の二乗に反比例)と放射性物質の拡散が混同されることがある。

(遠方に届くのは放射性物質で、各地での放射線測定値は、その地域に届いた放射性物質が出す放射線のもの。届き方・蓄積のしかたは風向きや地形などによる。ただし、遠方にいくにつれて薄まることは確か)。

●チェルノブイリと福島の違いはあまり理解されていない(前者は黒鉛を減速材とする炉で稼動中の事故、後者は水を減速材とする炉で停止後の事故)

●水がなければ再臨界は起きないことはあまり知られていないようだ

●放射性物質は放射線を出して別の元素に変わる(これが「崩壊」)ので、放射性物質からの放射線は時間とともに減ることが知られていないかもしれない。放射性物質の半分が崩壊する時間が半減期。半減期は放射性物質の種類によって違う

●半減期は「どの時点からスタートしても、そのときの量の半分になるまでの時間」なので、決して半減期の二倍で全部なくなるわけではない。半減期の二倍の時間が経つと、もとの1/4になる

●もしかすると、「放射性物質は病原菌のような生き物ではない」ということも書いておくべきなのかもしれないという気がしてきた・・・。外から取り込まない限り体内で増えることはない。煮沸消毒しても消えない。殺菌剤は効果がない、など。

●「メルトダウン」という言葉の使い方には(欧米でも)幅があるようで、単に燃料棒が融けることを表現したり、連鎖反応を続けたまま炉の容器が融けることだったりする。たぶん、英語圏の人には専門用語としての面のほかに、文字通り「融け落ちる」程度の日常語としての面もあるのではないか。だから「メルトダウンなのかそうでないのか」といった議論は無効だと思う(日本では専門用語としてしか捉えられない)。

●MOX燃料でなければプルトニウムは含まれないという誤解があるような気がする。プルトニウムは原子炉を運転するとできるので、MOXでなくても含まれる

[放射線の影響]

●放射線の急性影響と長期の発癌リスクのどちらを話しているかわからないことがある

●体外からの放射線を浴びる体外被曝と放射性物質を体内にとりこんで体内で放射線が出ることによる体内被曝があるが、どちらの話かわからないことがある

●大人への放射線影響と妊婦や子どもへの影響の違いがあまり広報されないようだ

●妊婦には「妊娠している可能性のある女性」も含まれることは見落とさせれがち

●放射性物質が体内に取り込まれても、時間が経てば代謝によって体外に出される。代謝まで考慮して、取り込んだ放射性物質の半分がなくなるまでの時間が、生物学的半減期

●取り込まれた放射性物質が健康に影響するのは、代謝されるまでに体内で放射線を出すから。すごく半減期の長い放射性物質は影響が小さいことに注意(コメントもいろいろいただいていますので、参照)

●もしかすると、放射性物質を病原菌みたいなものと誤解している人も多いのかもしれない。放射性物質は生きていないので、「殺菌剤」の効果はない。野菜などはあくまでも「洗い流す」ことがだいじ

●プルトニウムはアルファ線源で半減期も半端に短いので、もちろん注意するべき物質なのだけど、必要以上に危険視されているのは古い知識のせいかもしれない。このあたりを見ておくといいかもしれない

http://www.atomin.go.jp/atomin/high_sch/reference/atomic/plutonium_science/index_05.html

[原発の二次被害(風評・差別)]

差別や風評被害を防ぐためにまず必要なのは正しい知識だという思いを強くした(それだけで防げるわけではないが)。風評被害という言葉はよくないという意見もあり、そうかもしれないと思うので、いずれ訂正します

●よくわからないが、原発事故以前に出荷されたはずの農産物(米など)まで避けられているようだ(そもそも事故以後はまともに出荷されていないはず)

●放射能を恐れて避難地域への物流も来ないという話

●既に放射能差別は始まっている。

●体についた放射性物質は洗い流せばよい。放射線を浴びた人に近づくと被曝するといったデマもあるようだ(この種のデマは昔もあった。感染症と勘違いしているのだろう)

●原乳から放射性物質が検出されることと牛乳に放射性物質が含まれることとはまったく違う。現時点では、そもそも原乳を牛乳として製品化してパックして出荷するというプロセス自体が動いていないので、「放射性物質が含まれる牛乳はない」でよい

[停電]

●発電した電気は貯められない(揚水発電を除き)ということはあまり知られていない。

●停電を避けるための節電と省エネのための節電とが混同されている(停電を避けるにはどの時間帯でも電力需要が供給量より少ないことが必要なので、電力需要の大きい時間帯ほど節電しなくてはならない。省エネはトータルで考えればいいので、たとえば夜間だけ電気の使用を減らすなどでもできるのに対し、停電を避ける目的では夜間の節電はあまり意味がない)

●計画停電の理由は大規模停電を避けるため(電力需要が供給を超えると予測不能の大規模停電が全域で怒りうる・・じゃなくて起こりうる。誤植注意)

●周波数が違う地域で節電しても、東京電力の停電回避には役立たない

[水]

●飲料水中のI131濃度の基準値はWHOのガイドラインで10Bq/Lとなっているが、ガイドラインにはこれは「平時」の値であって放射能災害時には適用されないことが明記されている。日本の300Bq/Lは非常時の値として以前から提案されているものなので、WHOの基準値を勝手に30倍にしたという説は間違い。


2011/03/21 地震・津波・原発についての信頼できない情報源

カテゴリー: 放射能問題

信頼できない情報源についても、まとめがあったほうがいいですね

こちらは「真に受けないほうがいい情報」です

とりあえず

「破局は避けられるか――福島原発事故の真相 ジャーナリスト 広瀬隆」

http://diamond.jp/articles/-/11514

マグニチュードの意味も理解せず、速報値が修正されたことを陰謀と位置づけるなど、かなり悪質なので、まず書いておきます


2011/03/21 地震・津波・原発事故に関する信頼できそうな科学情報

カテゴリー: サイエンス

masudakoさんからのリクエストに遅ればせながら答えて、信頼度の高そうな情報源などについて書きましょうか。

「高そうな」は無責任ではないかという考えもあるかもしれませんが、僕にできるのは「高そう」ということまでです。コメントにいただいたものからも、少しずつここに書いていきます

すみません。原発・放射線ばっかりになっています

「福島原発の放射能を理解する」

http://ribf.riken.jp/~koji/jishin/zhen_zai.html

カリフォルニア大学のB. Monreal氏による講演のスライド日本語訳

この文書の読み方については、翻訳の中心になった野尻さんのブログを参照

http://nojirimiho.exblog.jp/

東大の早野さんはtwitterによる速報が中心

http://twitter.com/hayano

線量のデータをグラフ化したものなども紹介されるので、現状を知るのに大変参考になります(もちろん、早野さんの手が空いてるときだけです。早野さんにメールとかしないように)

農水省・原田さんのtwitter

http://twitter.com/hideoharada

これを読めば、放射能汚染された牛乳など出荷されていない(そもそも牛乳が作れる状態にない)ことなどがわかる。その他、畜産を中心とした重要な情報源

放射線は「甘く見過ぎず」「怖がりすぎず」(八代嘉美)

http://webronza.asahi.com/synodos/2011031800001.html

放射線影響については、いくつか読みやすい解説がありますが、「なぜ」までがわかりやすく書かれているもののひとつ

東大病院放射線治療チームのtwitter

http://twitter.com/team_nakagawa

信頼度の高いここですら「水中のヨウ素は煮沸で減る」という誤解を流したことがあるので、信頼度の高い情報源を複数見る

左巻さんの「放射能・放射線の基礎知識」

http://scienceportal.jp/contents/guide/rikatan/1103/110317.html

東工大・中村さんの「放射線を理解するために」

http://be.nucl.ap.titech.ac.jp/RI-lecture.pdf

日本科学者会議の「福島原発問題について(科学者の眼)――科学者による原発事故の解説」

http://www.jsa.gr.jp/pukiwiki/index.php?%CA%A1%C5%E7%B8%B6%C8%AF%CC%E4%C2%EA%A4%CB%A4%C4%A4%A4%A4%C6#d4c6b468

失敗学会「吉岡メモ」

http://www.shippai.org/shippai/html/index.php?name=news559


2011/03/20 「健康にはただちに影響しない」とはなにか

カテゴリー: 日 記

twitterばかりですみません

被曝量などについて、「健康にはただちに影響しないレベル」という表現を目にする機会が増えました。

もちろん、これは、だから安心していいですよという意味なのですが、難しいですよね。

この言葉は曖昧です。少なくともふたつの意味に解釈できます。たとえば、どこかの放射線レベルの話だとすると

(1)仮に今すぐ避難しても、いずれ健康影響が出る可能性がある

(2)仮に今のレベルがそのまま続いて、その場に滞在し続けるとしたら、健康に影響する被曝量に達する可能性がある

という解釈がありえます。

本来の意図は(2)でしょうから、今後の放射線レベルに注意していればいいはずですが、(1)だと思ってしまった人は不安ですよ。それでなくても不安を感じている人は、(1)だと思ってしまうのではないでしょうか。すると、「いずれ影響が出るというのに、なんで安全だって言うんだ」と不信感を持つのが当然。

こういう細かい表現にもう少し気を配る必要があります。「政府の発表は信用ならない」と考える人は多いのですから

(僕は、最初の水素爆発以降、政府発表の信頼度は劇的に上がったと考えています)

本当はデータを見て、累積被曝量を自分で計算できればいいんですが、すべての人にそれを求めるわけにはいかないでしょうね


2011/03/16 業務連絡: お元気ですか

カテゴリー: イベント・告知

ほったらかしですみません

地震のときはちょうど立川の統計数理研で研究会をやっていました。

みなさん、ご無事でしょうか