201010のブログ

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2010/10/19 「今この世界を生きているあなたのためのサイエンス」
2010/10/03 ホメオパシーの特殊性について
2010/10/01 EMで川はきれいになるのだろうか

2010/10/19 「今この世界を生きているあなたのためのサイエンス」

カテゴリー: サイエンス

とっくに随所で話題で再版もされるようですが、Richard A. MullerのPhysics for future president (未来の大統領のための物理学) の邦訳が『今この世界を生きているあなたのためのサイエンス』の題で楽工社から出ています。

将来アメリカ大統領になるなら知っておくべき科学(主として物理学)の知識を解説するというとても面白い本。なにしろアメリカ大統領なので、テロも温暖化も宇宙開発もエネルギー開発も核兵器も知らなくてはならないわけです。特に原子力(核兵器を含む)と温暖化問題にはかなりのページを割いていて、読み応えあり。

911についても簡単に(主として、ビルの崩壊問題)まとめられています。

著者はUC Berkeleyの物理学の教授ですが、『恐竜はネメシスを見たか』の著者と言ったほうが、一部の人には通りがいいかも。

僕も少しだけ手伝ったので、読んでみてください。ちなみに、売れても僕は儲かりません。(同じ楽工社でも「おかしな科学」は再版ほど遠い感じです)

サンデル本にいろいろ似た感じに仕上がっているのは、時節柄お約束。


2010/10/03 ホメオパシーの特殊性について

カテゴリー: ニセ科学,ホメオパシー

ホメオパシーのエントリーを徒に増やすのもどうかとは思うのですが、書いておきます。

ホメオパシーの議論を民間療法や代替医療全般の議論とごっちゃにしてはいけないですよね。共通に議論できる問題と個別に議論できる問題がある。たしかに『代替医療のトリック』という本はあって全部まとめているように思えるかもしれないけど、決して代替医療を十把一絡げに書いているのではなく、中を開けるとちゃんと個々の代替医療についてそれぞれ議論しているわけです。まあ、結果として、代替医療はだいたい効果がないということになるのですが。

何度か書いていることですが、ホメオパシーはそれなりに広まっている民間療法・代替医療の中では際立って特異です。薬草であれ鉱物であれ、なにがしかの物質を飲んだり塗ったりするもの、あるいは鍼灸のように物理的刺激を与えるものなどは、「効果がある」と言われれば、いちおうその真偽は実際に確かめてみないとわかりません(確かめる価値があるかどうかはさておき)。原理的にありえないわけではないからです。

それに対し、ホメオパシーのレメディは(謳い文句通りに希釈されているなら)とにかく物質科学の観点から「プラセボ以上の効果なし」がはっきりしています。

一般にさまざまな療法の効果は、臨床的に確認されるべきです。メカニズムの有無は二次的で、臨床的に確認されるかどうかが最も重要です。「メカニズムがわからないから効果はありえない」と言えるほど、僕たちは人体についてよく知っているわけではないので。

ただ、それはあくまでも一般論で、たとえば明らかにエネルギー保存則に反する療法があれば臨床試験をやる前から「ありえない」と言ってかまわないはずです。

ホメオパシーのレメディは、謳い文句通りであれば元物質を含まないので、原理的に「プラセボ以上の効果はない」ことが明らかです。もちろん、希釈度が低いレメディについてはその限りではありませんが、よく使われる30Cについては「ない」と断言してかまいません。逆にいうと、もし臨床的に「効果あり」と確認されるなら、それは「実際には謳い文句通りに希釈されていない」ことを意味します。

それでも、ホメオパシーには多くの臨床試験が行われて、報告されています。

それは一般に臨床試験が重要だからだし、否定するにしてもやはり臨床試験を経て否定するのが正しいからです。また、ホメオパシー推進側のロジックでは「物質科学的にありえない」という部分を否定しているので、それに対しては臨床試験が大きな意味を持ちます。

しかし、いかにメカニズムの有無は二次的といっても、原理的に効果がありえないものなのだから、臨床的に「効果あり」という結果が出たらなにかがおかしいはずです。それは単なる統計的な誤差かもしれないし、もしかするとデータの取り方が不適切なのかもしれない。ひょっとしたら捏造かもしれないし、あるいは上に書いたように実は希釈されずに成分が残っているのかもしれない。いずれにしても「統計的揺らぎの範囲」または「おかしい」のです。

だから、ホメオパシー推進派のいう「効果は臨床的に確認されている」は間違っています。単に「そういう実験結果もある」ということに過ぎません。実験条件がきちんと設定されたものではホメオパシーの効果が見られなくなるというメタアナリシスの結果がそれを裏付けています。

そういうわけなので、「メカニズムは二の次で、まずは臨床的に効果を確認すること」というのは一般に正しいのですけども、ホメオパシーの特異性の前ではあまりそれにこだわりすぎるのもよくないでしょう。

「原理的にありえないし、それは臨床的にも確かめられている」というあたりがちょうどいい感じです。

波動医学なんかも、そんな感じ


2010/10/01 EMで川はきれいになるのだろうか

カテゴリー: ニセ科学,EM菌

いや、この話に結論はないんですよ。

流れのある川にEM団子を投げ込むイベントを単発でやったところで、効果は期待できないでしょうし、福島県が言うように汚染源になる可能性もある。

しかし、「川を浄化するために、EMを川に投入」というのは(効果の確認もされないまま)全国のかなりの数の川で行われてきたのでしょうから、そろそろその結果のまとめがあってもよさそうです。

成功(と信じられている)例は散発的に報告されますが、効果が見られなかった事例も少なからずあるはずで、いったい全国でどれくらい試みられてどれくらいが(少なくとも、見た目の上で)うまくいきどれくらいがうまくいっていないのか、多くの人が興味を持っていると思うんですが。

必要なのは、(1)どういう状況の場所で(2)どのように行われ(3)どのような経過をたどったか、でしょう。ほかにも何かあるかな。(1)ではEM以外にどういう対策を取っていたかも重要です。

そういう調査って、行われてないんですかね。

幸か不幸か、これだけたくさん行われているのだから、網羅的な調査ができる面白いテーマじゃないかなあ

ちなみに、ここで書いているのは「見かけ上」の成功・失敗の話で、成功例があってもそれだけではEMの効果を立証しないことは当然です。EM団子イベントを一度やったら、川が少しきれいになった、なんていう例は九分九厘偶然でしょう。

でも、「症例報告」に相当するものを蓄積するのは重要だと思います。