ニュースでご存知でしょうが、国民生活センターがゲルマニウム・ブレスレットについての調査結果を発表しました。
http://www.kokusen.go.jp/test/data/s_test/n-20090625_1.html
そもそもゲルマニウムを含まない商品があるなど、めちゃくちゃもいいところですが、個々の商品もさることながら、今回の発表で最もだいじなのはこれでしょう。
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全ての銘柄に、ゲルマニウムが健康に対する何らかの効果を示す旨の表示がみられたが、独立行政法人科学技術振興機構の科学技術文献データベースで検索したところ、科学的根拠を示す文献は確認できなかった。
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つまり、テスト対象となった個々の商品だけではなく、「健康効果を謳うゲルマニウム商品全般に科学的根拠がない」と言っているわけです。
そして、これに関連して消費者へのアドバイスは
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テスト対象銘柄に表示されていたゲルマニウムの健康への効果は、文献調査及び製造・販売業者に対するアンケート調査を実施したところ、根拠となる科学的データが確認できなかった。ゲルマニウムブレスレットを購入する人は健康への効果を期待すべきではない。
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業界への要望は
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ゲルマニウムのヒトに対する効果に関する表示について、明確な科学的根拠がなければ表示を取りやめるよう要望する。
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行政への要望は
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ゲルマニウムの健康への効果について、科学的根拠を示す文献が確認できなかった。景品表示法上問題があるおそれがあるため、監視・指導の徹底を要望する。
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「ゲルマニウムの健康への効果について、科学的根拠を示す文献は確認できなかった」です。そして、業者も根拠を提出できなかった。
これでゲルマニウム商品の問題は基本的に終了のはずです。
この情報がきちんと行き渡れば、ですが。
しかし、それでも「ゲルマニウムは体によい」という迷信は生き残るのかもしれません。
[追記]
下でもコメントがありましたが、ここで問題になったのは「身につけるゲルマニウム」でした。まあ、淡谷のり子さんの「ゲルマニウム・ローラー」から何も進歩していないということでしょう。
ほかに「飲む」ゲルマニウムがあります。純ゲルマニウムや酸化ゲルマニウムは腎臓障害を起こすので、サプリメントとして摂るべきではありません。いわゆる「有機ゲルマニウム」には副作用がないのではないかと信じている人はたくさんいるようです(なんらかの意味で常識的な摂取量での話だと思います)。いっぽう、やっぱり副作用があるようだ、という説もあります。ゲルマニウムは必須元素ではないので、「副作用がないかも」くらいのものなら、摂らなきゃいいんじゃないか、と思います。ちなみに「有機ゲルマニウム」の代名詞である「浅井ゲルマニウム」はかつて健康被害を起こしたことがあります。「不純物のせい」ということになったと記憶しますが、なにしろ純ゲルマニウムや酸化ゲルマニウムが混じっていてはまずいわけです。
それから「ゲルマニウム温浴」ですか。まあ、害にはならないのじゃないですかね。ゲルマニウム特有の効果があるとは思えませんが、どうでしょう。
[追記 7/1]
浅井ゲルマニウムの健康被害事件は「不純物」というより、無機ゲルマニウムを有機ゲルマニウムと称して売った偽物のせいだったようですね。
(会社としての)浅井ゲルマニウムのサイトに以下のページがあり、この件についての詳細な検討がされているようです。
http://www.asai-ge.co.jp/safety/report.html
ただし、
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail979.html#5
には消費者向けの情報として
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「無機とは異なり、有機ゲルマニウムは安全である」として、それを含む製品が販売されています。しかし、有機ゲルマニウムとして販売されていた製品の中にも、成分分析によって無機ゲルマニウムを含有したものが存在していたことが明らかにされたり、有機ゲルマニウムそのものにも毒性があることが報告されたりしています。
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とあり、最後のほうに
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ゲルマニウムの効能については、医薬品として承認されているプロパゲルマニウムを除き、その科学的根拠のある有効性・安全性の情報はほとんど見当たりません。また、ゲルマニウムを通常の食品以外の濃縮物や添加物として摂取した場合、生死に関わるような重篤な副作用も起こります。このようなことから、有機ゲルマニウムという表示をした製品であっても、消費者の方が自己判断で安易に利用することは安全ではないと考えられます。
.......
とも書かれています。
こういう警告がされていることは理解したほうがいいですね
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail35.html
も参照のこと。
ちなみに、浅井ゲルマニウムは海外文献ではGe-132と書かれていますので、Ge-132で文献検索すると、いろいろ出てきます。
先日、某研究会の懇親会で話題になったので、忘れないうちに書いておきます。
今年になって、大学祭で一度、理系向けの授業で一度、オウム真理教について、少しだけ話をしました。基本的には科学リテラシーの話の一環として、ちょっとだけね。
阪大でオウム真理教の話をするのはだいじだと思っています。
阪大は、そして阪大の理学部物理は、あの村井秀夫を生んだのだから。いや、生んだといっても、積極的に生んだわけではないですが。
オウム真理教と阪大のかかわりをなんとなくみんなが忘れていって、新入生にはまったく伝わらない、という事態は非常にまずいと思います。やはり、ある程度、積極的に伝える努力をするべきでしょう。
僕の記憶が間違っていなければ、阪大の大学祭に麻原が来たことがあったはずなのだけど、そのときの様子がどうだったのか、まったくわかりません
[追記]
松本サリン事件から15年です
ニュースによれば、国内感染者は累計で1000人を超えたようです。
感染者報告数の推移です。
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/epi2009/090625epi.html
ひとつめのピークのあと、いったん終息したように見えたのも束の間、今はコンスタント感染者が出ていますね。
おさまったとはとても言えない状況だと思いますが、マスク姿はめっきり減りました。
ステレオタイプな科学者像に興味をお持ちのみなさん。
こんな企画があります。
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「オス!オラ、○○」「ワシが博士じゃ。」役割語解体分析
日時:6月30日 18:00〜19:45
場所:大阪大学豊中キャンパス21世紀壊徳堂 多目的スタジオ
http://21c-kaitokudo.osaka-u.ac.jp/30a230af30bb30b9/
ゲスト:金水敏(大阪大学文学研究科教授兼CSCDセンター長)
参加費:無料
事前予約:不要
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というわけで、「数理科学」の掲載誌が届きました。
早いなあと思ったけど、実は明後日発売なので、早くないのでした。
コンセプトは素粒子と物性の共通概念や手法を両方の立場で書くというもので、記事二本ずつが組になっています。ただし、相談して書いたわけではないから、対応しているかどうかはいろいろ
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「数理科学」7月号 (6/20発売予定)
特集:現代物理の世界像 − 素粒子と物性の対話 −
対談: 阿部龍蔵・米谷民明
光から始まったゲージ場 坂井典佑
ゲージ場をめぐって 永長直人
"繰り込み"という立役者 青木慎也
繰り込み群と物性物理学 菊池誠・岡部豊
双対性という概念 高柳匡
対称性の考察 高橋實
理論と実験の関係:現状と課題 岡田安弘
理論におけるモデルの役割と実験 今田正俊
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我々の記事の構成は
1. はじめに
2. 1次元イジングモデルの実空間繰り込み群
3. 場の理論とブロックスピン
4. 臨界現象と固定点の安定性
5. モンテカルロ繰り込み群
6. 密度行列繰り込み群と量子化学
7. カオス系
8. おわりに
となっています。7ページにこれだけ詰め込んだので、深いところはないです。
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1232851232#CID1244735604
でながぴいさんにお知らせいただいて以降、議論が続いていますが、エントリーを独立させることにします。続きはこちらで。
6/14の「たかじんのそこまで言って委員会」に民主党・藤田幸久議員が登場して、9.11陰謀論を展開したそうです。
陰謀論のダメさ加減が披露されることになるのかと思ったら、意外にもそうはならなかったようで、否定派の人選・戦略のミスでしょうか。
議員が議員の肩書きででたらめを展開するのなら、否定側にはきちんと反論のできる人を用意してほしいものです。議員ですからね。
テレビで「きちんと」というのが可能なのかという根本的疑問もありますけれども。
繰り返しになりますが、「9.11自作自演説」はまったくのナンセンスです。陰謀論派は個別の疑問ばかり言うのですが(しかも、その多くはすでに論破されています)、もっとも根本にある「自国民を何千人も殺すという陰謀に多数のアメリカ人がかかわり、その秘密を守っている、と考えることのナンセンス」について彼らはなんら説得力のある答を提出できません。それだけ巨大な陰謀なら、関係者の中には「知人がWTCで働いている」人だっていたでしょう。
陰謀論にはまる議員がいること自体、かなり情けない話です。しかし、民主主義社会ですから、それもまた我々有権者の責任なのでしょう。「誰かの責任」ではなく、我々の責任であるのだと思います。
まさか民主党が党の方針として「9.11自作自演説」を支持しているなどということはないでしょう。しかし、では藤田議員が党内でたしなめられているのかというと、どうもそのあたりがわからない。
もし、民主党がこれを「容認」しているのであれば、あまりにもだめであると思います。これは「思想信条の違い」という話ではないでしょう。
番組をご覧になったかたの感想など、いただけるとありがたいです。
[追記(6/19)]
秘密の方法により(^^)、番組の該当部分を見ることができました。
番組自体は、なんたって「陰謀説ゴングショー」ですから、最初からかなり陰謀論者を馬鹿にしています。たかじんも辛坊さんもそのスタンスは最後まで崩していません。呆れているように見えます。
否定派で積極的に発言していたのは宮崎哲弥とデーブ・スペクターで、このふたりの主張はまったくもって正しいと思います。
それにもかかわらず、藤田議員に分があるような印象を受ける人が少なからずいる(らしい)のは、彼が実は「何も言っていない」からでしょう。誰がやったのかと訊かれても「わからない」と答える。わからないが確かにおかしい、というわけです。これは単に逃げなのではなく(逃げてるのだとしても)、非常に巧妙で、視聴者に「たしかに何かがおかしい」と思わせる効果があります。というか、わからないときは「わからない」と言うのが科学的誠実さだ、と僕らも言っているわけです。
そんなわけで、この番組での藤田議員に対する印象は、9.11陰謀論をずっと見てきた人とこの手の話に初めて触れた人(あるいはなんとなく聞いたことがあるという程度の人)とで大きく違うのでしょう。僕らはついつい前者の視点で評価します。僕などは「藤田議員は結局何も言っていない」じゃないかと思ってしまうのですけど、テレビでは後者の視点がだいじなのでしょうね。
宮崎哲弥もデーブ・スペクターも9.11陰謀論をよく知っていて、発言は正しいのですが、それがなんとなくうまく伝わらないのは、そのあたりの問題かと思います。
特に宮崎さんのコメントは、どこにもっていきたいかがある程度見えるだけに、半端で終わってしまのが惜しい。テレビだからなあ。ああいう緻密な論には向かないんだよなあ。
藤田議員から示された主な疑問は、株の問題、犯人とされながら生きている人物の存在、WTC7の崩壊、ペンタゴンの突入痕、未確認の日本人犠牲者など、かな。
たとえばビルの崩壊ひとつ取ったって、僕などは「じゃあ、WTC1と2については陰謀ではなかったという結論でいいのですね? あんだけ大騒ぎしといて」と言いたくなってしまいますが、WTC1,2の問題を聞いたことがなければ、「へえ、ビルは爆破されたんだ」と信じてしまうかもしれません。
陰謀論側が出した疑問の多くが論破されてきたという歴史は完全に無視して、「まだ耐えられそうな問題(論破されているものでも)」だけを取り上げ、しかも判断を視聴者にゆだねる。この手は、コアな陰謀論否定派には通じないけど、視聴者には通じるのでしょう。
デーブ・スペクターが藤田議員を「単なる陰謀好き」呼ばわりしました。僕の印象も同じです。この人は陰謀が好きで好きでたまらないのだろうと思います。デーブの言おうとしたことには共感します。僕も彼と同様に「馬鹿げた陰謀論を弄ぶのは死者への冒涜」だと考えるからです。そして、藤田議員のもっともダメなところはその自覚がまったくない点です。もちろん、自覚がないから陰謀論者でいられるわけですけど。
宮崎さんと藤田議員の長時間対談を企画してほしいですね。宮崎哲弥にもっと時間を与えよ。
今は亡きPopular Science Japan誌に連載した「渋谷研究所X」が単行本になります。「おかしな科学」の題で、楽工社から7月初めに出る予定。
http://www.rakkousha.co.jp/books/a_04.html
ニセ科学やオカルトを研究する謎の組織「渋谷研究所X」の亀さんと六さんという二名の所員による脱力系トーク集です。
単行本化にあたって、連載記事には手をいれるのは少しだけにして(でも、入れてます)、「陰謀論」の記事を追加し、さらに各記事のあとには、フォローアップのために、僕と亀さんか六さんとの対談をつけました。また、最後にわりと長い鼎談を加えています。
PSJ連載時に読まれたかたはご存知のとおり、もともとが駄洒落ばっかりでかなり「ゆるめ」な連載でした。単行本もそれを踏襲して「かなりゆるめ」を目指しました。いろんなところに意味のない「オチ」がついています。怒らないでね。
ですので、オカルトやニセ科学のコアなファンには食い足りないでしょう。今からあやまっときます。「と学会」の本と違い、コアなファンに向けては作ってないので。
それでも、まあまあ押さえるべきところは押さえ、ちょっとほかにはないタイプの本になったかなとは思います。
えーっと、もちろん、亀さんと六さんにあたる実在の人物が書いてるわけですが、登場する亀さんと六さんは捏造人格だし、トークもほとんど捏造です。僕だけは、表向き、リアル人格で出ていますけど、なにせ捏造人格との対話ですから、対話自体はかなり捏造です。生のトークを読むのは大変ですから。
内容については、このブログでのみなさんとの議論を参考にした(あるいは、ほとんどそのまま使わせていただいた)部分も多々あります。ありがとうございます。
「ニセ科学入門」はどうなったとお思いのみなさま・・書いてます、すみません。
(ねぼけて、最初「あやしい科学」と書いてしまいました。「おかしな科学」です)
[追記(6.28)]
複数のネット書店で予約可能になっています。
もっとも、もし予約するなら、近所のリアル書店にしていただいたほうがいいです。
近所の書店をだいじにしないと
告知が一週間遅れましたが、SuperCon2009の予選問題が公開されています。
http://www.gsic.titech.ac.jp/supercon/
お近くに興味を持ちそうな高校生・高専生がいたら、ぜひ参加を勧めてください。
以下、高校生へのメッセージです
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プログラミング好きの高校生のみなさん
SuperConに挑戦してみませんか。
日頃、パソコンでプログラミングを楽しんでいる高校生のみなさん、
この夏はスーパーコンピュータでスケールの大きな計算に挑戦しませ
んか。SuperConはスーパーコンピュータを使った高校生のためのプロ
グラミング・コンテストです。全国の高校生プログラマーと大阪大学
にある最新のスーパーコンピュータSX-9を使ってプログラミングの腕
を競いましょう。大学の先生と大学院生のチューターが指導します。
まずは仲間とチームを作り、パソコンでできる予選問題に取り組んで
ください。
今年はまだSuperConに参加するほどの力はないかもしれないけど、
来年・再来年には参加したいと考えているみなさんは、今年は「スー
パーコン実力認定問題」に取り組んでみてください。提出されたプロ
グラムによって、スーパーコン3級から1級までの級位を認定します。
認定証も発行します。
みなさんの参加を待っています。
SuperCon2009実施委員長 菊池誠(大阪大学サイバーメディアセンター)
ばたばたしていて、ごぶさたです。
新型インフルエンザについて、ついにフェーズ6が宣言されました。
これからは主として南半球での感染が広がるのでしょうが、日本でもまだまだ患者が発生し続けていますね。
取り急ぎ、これだけ
「数理科学」6月号に鈴木増雄先生が繰り込み群の記事を寄稿しておられます。「数理科学」は昨年も川上則夫さんの記事を掲載したと思うのですが、今年もすでに3月号と5月号にそれぞれ園田英徳さんと伊東恵一さんの手になる繰り込み群に関係する記事が掲載されています。もちろん、内容は違うんですけど。伊東さんのはRicci flowとの関係だし、園田さんのは厳密な繰り込み群方程式の話だし。
しかし、そんなに繰り込み群の記事ばかり掲載されるのは、どうなんでしょうね。
何がいいたいかというと、実は7月号には僕と岡部さんの繰り込み群の記事が載るのです。二ヶ月続けて、1次元イジング模型の繰り込みの計算を読まされる読者はどう思うかな、と。