日時
2017年6月9日(金) 13:30–
場所
大阪大学サイバーメディアセンター 7F 会議室
題目
ガラス転移の現象論:「自然な揺らぎ」によるガラス化と相関構造の記述
発表者
古川 亮 氏 (東京大学 生産技術研究所)
要旨

一般にフラジャイルと称されるガラス形成液体では「マクロ」な密度の変化は、それが微小であっても「マクロ」なガラス化を強くコントロールする。一方で、密度そのものは空間的に揺らいでいる。マクロな密度の微小な変化がマクロなダイナミクスに劇的な影響を与えることは経験事実であるが、同様に局所的な密度の揺らぎは、それが微小であっても局所的なガラス化をコントロールしていると考えることは自然に思える。しかし、多くの文献で報告されている通り、密度-密度相関には、何も異常は観測されないし、その相関長は粒子サイズのままである。そこで、 以下のように考えてみる[1]: “macro-system”の中に”subsystem”を決めた時、そのsubsystemで定義される平均密度は、わずかではあるがやはり揺らいでいる。その揺らぎはsubsystemのサイズに依存するが、(与えられた環境下で)適切なサイズのsubsystemを設定すれば、それらのうち平均密度がjammingもしくは強いcagingを引き起こすに十分な密度になっているものを一定割合見つけることができる。そのようなsubsystem内部の粒子は拘束され、そのダイナミクスはある一定時間(~アルファ緩和時間)凍結すると見なすことができるであろう。つまり、このような空間的に不均一に分布するsubsysetmの密度を局所的なコントロール変数と考え、その統計性から長さスケールの発散、さらにはガラス転移を論じることができるのではなかろうか?例えば、通常のモード結合理論(MCT)では「マクロ」な平均密度をコントロール変数として、閾値以上の平均密度における「マクロ」な凍結を記述する。しかし、現在のMCTの枠組みは”不均一性”や”長さスケールの成長”といった概念を含まない。また、本セミナーでお話しするスキームは複数の異なる理論モデルで考えられている相関の発散様態と同様の予測を与えるが、講演者が提案する予測は「熱力学的な特異性を前提にしないこと」と「議論それ自体から得られる閉じた予測であること」において基本的な性格が異なることを強調したい。過冷却液体の密度ゆらぎはガラス転移点に近づいてなお単純液体のそれとほとんど見分けがつかず、いわば「自然なゆらぎ」のままである。これこそがガラスの不可思議さの所以であるが、そこに我々がまだ認知し得ないゆらぎの異常があるのか?それともそうでないのか?現在のコミュニティでは前者の立場での研究が主流であるが、本研究は後者の立場におけるひとつの可能性の提案と受け取って頂ければ、と考える。非ニュートンレオロジー[2]との直接の関連についても時間があればお話ししたい。

[1] A. Furukawa, A growing length-scale in supercooled liquids: Cluster formation induced by local densification, arXiv:1704.00394
[2] A. Furukawa, Onset of Shear Thinning in Glassy Liquids: Shear-induced Small Reduction of Effective Density, Physical Review E, Vol. 95 Art. No. 012613 (2017)