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2014/03/17 「いちから聞きたい・・」のあとがき [kikulog 644]
2014/03/03 論文: Structural flexibility of intrinsically disordered proteins induces stepwise target recognition [kikulog 643]

2014/03/17 「いちから聞きたい・・」のあとがき [kikulog 644]

カテゴリー: 放射能問題

「いちから聞きたい放射線のほんとう」が店頭に並びました。内容は柔らかいんだけど、テーマがテーマなので、どうしても科学書の「原発」とか「放射線物理」とかの棚に置かれてしまい、なかなか目にとまりづらいかもしれませんが、ぜひ手に取ってみてください。おかざき真里さんのイラストがすばらしいです。

宣伝も兼ねて、僕の「あとがき」を引用しておきます。本文は小峰さんの文章で終わりで、そのあとにつけてあるこのあとがきはまあおまけのような事務連絡のような、そんなものです


あとがき

 東日本大震災は東北地方に地震と津波による大きな被害をもたらしました。それから、東京電力福島第一原子力発電所の事故が起こりました。津波で失われてしまった町が放射性物質による汚染のために復興にとりかかれない、そんな光景も後に僕たちは目にしています。

 原発事故のあと、放射線について友人に聞かれる機会が増えました。小峰公子さんもそうした友人のひとりです。吉良知彦さんと小峰さんのZABADAKは、一聴して彼らのものとわかるユニークな音楽を四半世紀も続けてきた稀有なバンドです。その小峰さんの実家が郡山市にあるというので、いろいろな話をしました。物理を教えているとはいえ、放射線とはずっとごぶさただった僕は、あわてて教科書やICRP勧告などを買ってきたのでした。

 震災から3ヶ月後、いろんな人たちとガイガーカウンターミーティング(GCM)というイベントを開きました。その頃、たくさんの人がガイガーカウンターを手に入れて放射線を測っていましたが、ひどくおかしな測定値もあって混乱していたのです。「放射線をなるべく正しく測ろう」という趣旨で開いたのがGCMでした。おかざき真里さんとは、そのGCMで知り合いました。女性の揺れ動く恋愛感情を描くおかざきさんのマンガは繊細で美しく、そしてエロティックです。

 いま、放射線の本はたくさん出版されています。でも、書店に行くと、内容の怪しそうなものもずいぶん目に止まります。一般向けにやさしく書かれた本で信頼できるものは少数派のようです。これは困るね、基礎知識をわかりやすく書いたものがもっと欲しいね、ないなら作ってしまおうと小峰さんと話してできたのがこの本です。本文は小峰さんとインターネットを通じて交わしたチャットがもとになっています。おかざきさんに絵を描いていただいて、ちょっと他にはない本になりました。

 この本では、今知っておきたい知識に話を限りました。だから、普通の放射線の本なら必ず書いてあるはずの核分裂(原子力発電の原理ですね)やそのときに出る中性子線には触れていませんし、放射線という言葉もα線・β線・γ線のみっつに限って使いました。このみっつと中性子線は正しく言うなら放射線の中でも電離放射線と呼ばれるものです。ほかにも、話を簡単にしたところがたくさんあります。そのかわり、普通の本には出ていないような素朴な疑問にも答えたつもりです。  

 これを読んで、放射線についてもう少し知りたくなったかたには、次の二冊をお薦めします。

「増補改訂版 家族で語る食卓の放射能汚染」(安斎育郎著、同時代社)

「やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識」(田崎晴明、朝日出版社)

どちらも一般向けにわかりやすく(もちろん、この本よりは難しいけど)書かれたものです。

 この本が、これからの暮らしを考えるきっかけになればいいなと思います。


2014/03/03 論文: Structural flexibility of intrinsically disordered proteins induces stepwise target recognition [kikulog 643]

カテゴリー: サイエンス

ブログのバージョンアップやらなんやらで、書きそびれていたものです。博士課程学生の白井君の研究で、「天然変性タンパク質」についての計算機シミュレーションです。タンパク質は、生理条件下で特定の形(立体構造)を取って機能すると考えられてきましたが、近年、生理条件下でも特定の立体構造を取らないタンパク質が大量に発見されています。それらをまとめて「天然変性タンパク質」と呼びます。特に細胞の核内に多く、シグナル伝達などに使われています。以前の松下君の論文は「天然変性」が構造フラストレーションによって作られるという仮説を提示したものでした。この論文では、簡単な格子モデルを使って、天然変性タンパク質とターゲットとなるタンパク質との結合のシミュレーションを行い、天然変性であることがターゲット分子の認識に有効に働くことを示しました。興味のあるかたは、ぜひ白井君をセミナーに呼んでください

Structural flexibility of intrinsically disordered proteins induces stepwise target recognition

Nobu C. Shirai and Macoto Kikuchi

Citation: The Journal of Chemical Physics 139, 225103 (2013);

doi: 10.1063/1.4838476 http://dx.doi.org/10.1063/1.4838476

abstract:

An intrinsically disordered protein (IDP) lacks a stable three-dimensional structure, while it folds into a specific structure when it binds to a target molecule. In some IDP-target complexes, not all target binding surfaces are exposed on the outside, and intermediate states are observed in their bind- ing processes. We consider that stepwise target recognition via intermediate states is a characteristic of IDP binding to targets with “hidden” binding sites. To investigate IDP binding to hidden target binding sites, we constructed an IDP lattice model based on the HP model. In our model, the IDP is modeled as a chain and the target is modeled as a highly coarse-grained object. We introduced motion and internal interactions to the target to hide its binding sites. In the case of unhidden binding sites, a two-state transition between the free states and a bound state is observed, and we consider that this represents coupled folding and binding. Introducing hidden binding sites, we found an inter- mediate bound state in which the IDP forms various structures to temporarily stabilize the complex. The intermediate state provides a scaffold for the IDP to access the hidden binding site. We call this process multiform binding. We conclude that structural flexibility of IDPs enables them to ac- cess hidden binding sites and this is a functional advantage of IDPs.