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2009/11/30 東大物理のアピール
2009/11/30 GPGPU
2009/11/29 運営費交付金
2009/11/28 若手研究者支援
2009/11/27 科学への投資を誰に理解してもらいたいのか
2009/11/09 Physicaの血液型論文
2009/11/08 ウィルスとアルコール「消毒」と「殺菌」 (追記あり 11/9)
2009/11/07 バイオラバー関連論文
2009/11/07 空気清浄機とインフルエンザ・ウィルス
2009/11/06 youtube チャンネル
2009/11/03 ニセ科学フォーラム2009 (確定)(追記 11/12)

2009/11/30 東大物理のアピール

カテゴリー: 日 記

水をかけるような話ばっかり書いて、済みません。

東大の物理教室が「若手研究者の育成に関する緊急アピール」を出しました。

http://www.phys.s.u-tokyo.ac.jp/

僕は学振特別研究員制度によるPD雇用をもっと充実するべきだと考えているので、それ自体に反対する気は毛頭ないのですが、このアピールにはちょっと理解できない部分があります。

PD制度がさまざまな問題を抱えていることは事実で、巨視的に制度全体の将来像を描かなくてはならないのだと思います。もちろん、それは今回の仕分けの範疇を越えるので、言わなきゃらならないものではないのですけど、東大ならもうちょっとビジョンを提示してもいいのかなという気はしました。もっとも、それは本題ではありません

「それの削減をすれば、若手研究者が困窮し、研究に専念できなくなり我が国の将来に大きな影響を及ぼします」という部分をどう読むか、なんですけど、この不況下で「困窮」の論理は通らないのではないでしょうか。

実際、前にも書いたように、仕分けの議論では「博士だけ、なぜ優遇しなくてはならないのか」とか「博士の生活保護か」というような発言もありました。無論、これは仕分けの主流にはならなかったのですが、一般の人たちの中にもこのような素朴な疑問を持つ人は多いかもしれません。「困窮するから、金をくれ」というのでは、このような「生活保護論」を認めてしまったようなものだと思うのですが、いかがでしょう。

もし、本当に「困窮」が理由なのだとしたら、就職でもアルバイトでもしなさいという返事になってしまいます。そうではなく、我々には若手研究者を研究に専念させるために雇用するきちんとした理由があったはずだと思うのですが。

もちろん、この「困窮」ロジックは、筆が滑っただけでしょう。でも、こういう理由付けは、一般の人たちに「若手研究者支援」の意味を理解してもらうにはたぶん逆効果です。

[追記]

不正確であるという指摘をいただきました。

PDのうちで、学振特別研究員の制度では学術振興会から「研究奨励金」が給与として支給されますが、学術振興会との雇用関係はないので、「雇用」と書くべきではありません。

すみません

それ以外のPDについては、いろいろなのだろうと思います。


2009/11/30 GPGPU

カテゴリー: 日 記

取り急ぎ

浜田剛さん(長崎大、お目にかかったことはありません、たぶん)が開発されたGPGPUクラスターがゴードン・ベル賞を受賞されました。おめでとうございます。

これはもちろんすばらしい話なのですが、事業仕分けで次世代スーパーコンが話題になったタイミングだったために、次世代スーパーコン不要論の論拠にされたりもしているようです。

うーん、これは全然違うものだし、現状では、比較してどうこうではないと思います。

仮にこのGPGPUで10PFLOPSを実現しようとしたら、大変なことになるでしょう。もちろん、10PFLOPS機が本当に必要なのか、とか、100TFLOPS機を100台のほうがいいんじゃないか、とか、いろいろな議論はあると思いますが。

また、よく知らないので推測で書きますけど、GPGPUのほうは倍精度計算の速度じゃないですよね。目的の違う計算機でしょうから、今は同じ土俵で議論はしがたいでしょう。

ただ、次世代スーパーコン・プロジェクトを進めるためには、説明しなくちゃならない材料が増えた、ということではあると思います

すみません。今日もまったくまとまりません。

間違っているかもしれません。むしろ、いろいろ教えていただけるとありがたいです

仄聞したところでは、ゴードン・ベルのファイナリストにはほかにも面白いものがあったようです


2009/11/29 運営費交付金

カテゴリー: 日 記

運営費交付金を毎年1%ずつ削減するというのが自民党時代の政策であって、大学関係者はそれに反対していたはず。それが大前提だと思っていたのですが・・・

あたかも「自民党時代がよかった」かのように言う人たちがいるので、理解できずにいます。

とりいそぎ


2009/11/28 若手研究者支援

カテゴリー: 日 記

実のところ、次世代スーパーコンを「理不尽な事業仕分け」とか「事業仕分けが科学をつぶす」とかいう話のシンボルみたいに扱うのは筋が悪いと思います。

なぜそんなことになったのか分からないけど、「1位でなくてもいい」という言葉が「反科学」の象徴であるかのように使われています。まあ、わかりやすいですけど。

でも、「2位ではだめなのか」はそういう文脈ででてきたものではなく、「1位でなければ失敗なのか。2位ではだめなのか」という助け舟発言として出てきたことに気づかないと。実際、次世代スーパーコンの議論では仕分け側から何度もかなりあからさまな助け舟発言が出たのに、片っ端から拾い損ねて自爆してしまったわけです。

次世代スーパーコンは突っ込まれどころが多すぎて、仕分け側の発言のほうが圧倒的にまともだったので、これをシンボル扱いするのは戦略上まずいはずです。

もちろん、仕分け側が常にきちんとしたことを言っていたとも思いません。

若手支援の問題では、事業の枠の外にある制度上の問題を挙げて(それだけではないけど)、来年度の事業縮小という結論が出されましたが、これはまずい。仕分け側の筋書きに従うためには、事業の改善以前にもっとずっと大きな部分の制度を改善しなくてはならないはずで、それには時間がかかります。支援事業だけがいきなり縮小されたのでは困ってしまいます。もっと大きな政策の問題なので、来年度縮小ではなくて、民主党議員(この場合は蓮舫)がちゃんと持って帰って、政府に要求するのが筋ってものでしょう。いや、蓮舫はそういうコメントもしたとは思いますが、他人事っぽかったようにも思いますし。

また、「なぜ博士号取得者だけを支援しなくてはならないのかわからない」と言い出した仕分け人もいました。幸い、冒頭で蓮舫が若手支援が重要なことはわかっていると言ったように、この暴論(自明に暴論ではないですが)は他の仕分け人の同調を得られなかったと思いますけど、社会にはそう考える人もいる(それも、おそらくはたくさん)ということは頭にいれておいてもいいかもしれません。

なぜ支援するのかといえば、もちろん、高い金をかけて育てた研究者はなんらかの意味で社会のために役に立つはずだからでしょう。言い換えると、博士を役立てることのできない社会なら、博士なんか育ててもしかたがないわけで、その意味では「博士は支援すべし」は決して自明なステートメントではありません。ただ、僕たちは、博士号を取るほどの訓練を受けた研究者は社会にとって必要な人材だと考えている、ということです。

ときとして「高度な専門知識をもった人材」云々と言われたりしますが、ポスドクが、その専門知識がそのまま活かせる分野で活動できるとは限りません。一般には、活動分野は変えるものです。ポスドクは特定の分野の専門知識があるから大事なのではなくて、「ひとり立ちした研究者」だから大事なのだと思います。分野を変える気があるかないかは重要です。

まとまらなくて、すみません。

若手の人たちは文部科学省にコメントを送るべきですが、単に「現状維持すべし」とか「支援して当然」とかいうだけのコメントではたぶんなんの意味もないです。


2009/11/27 科学への投資を誰に理解してもらいたいのか

カテゴリー: 日 記

まだまとまった文章が書けないのですが、とりいそぎ。

一昨日、東大でノーベル賞科学者を集めた「決起集会」のようなものがありました。研究室で中継を流していたのですが、残念ながら、仕分けの議論そのものを聞いて、それを踏まえた発言をしたパネリストはいなかったようです。利根川進氏が質問に答えるのを聞きながら、何度か「利根川先生、あなたのおっしゃっていることはだいたい仕分け側が言ったことと同じです」とつぶやいてしまいました。

しかし、問題はノーベル賞のみなさんが退席されてからの第二部です。こちらも誰も仕分けを聞いていないようです。それ以上に問題だと思ったのは、あれではいったい誰に何を理解してほしくて開いた会かわからんという点でした。僕には、結局「科学は偉いのだから、だまって言い値で出せ」というふうに聞こえてしまいましたが、いかがでしょう。

敵はたくさん作ったのに対し、科学の味方を増やすことはできなかったのではないでしょうか。

ニュースによると

......................

行政刷新会議の加藤秀樹事務局長は26日、「(仕分け人は)誰ひとりとして科学技術を否定していない。そういうことを見も聞きも知りもせず、『非見識』というのは非科学的だ」

......................

とコメントしたようです

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091126/plc0911262253029-n1.htm

これはその通りだと思います。東大からの中継を聞きながら、いったい何に反論しようとしているのか、僕には理解できませんでした。僕はニセ科学批判の文脈で「存在しない仮想的に反論するパターン」に何度も出会っていますが、それとあまり違わない気がして、げんなりしました。

内輪の決起集会をやるのはかまわないけど、全国に中継して訴えようというなら、もうちょっと勉強するとか戦略を練るとかしないと

会場からの質問者の中に、きちんと仕分けの議論を踏まえたかたがおられて、僕の考えでは、あれが当日もっともまともな発言でした。しかし、残念ながら影響力はなかったようです。

以前僕を授業に呼んでくれた横山広美さんが司会されていましたが、横山さんは本当にあの会はあれでいいと考えておられるかのかどうか(ひそかにメールで教えてください)

それから、今日の朝日新聞科学面(大阪では21面)の記事は問題点をよくまとめています。

さて、慶応大学医学部G-COEが仕分けに対する声明を出しています。

岡野・末松両教授名で出されたこの声明を未読のかたはぜひ読んでみてください。かなりよくできていると思います

http://www.gcoe-metabo.keio.ac.jp/news/20091125.html

あ、仕分けの議論はニコニコ動画などで聞けます。僕はこれまでニコ動を避けていたのですけど、このためにアカウントを取りました。ひとつにつき1時間強です。興味のある問題だけでいいので、未聴のかたは聴いてください

取り急ぎ

[追記]

仕分けというのはなんの決定でもなく、もちろん彼らに予算を決める権限などありません。そして、僕たちが警戒しなくてはならないのは、途中の議論がすっ飛ばされて「結論」だけが財務省に都合よく利用されることでしょう。だからこそ、仕分けの議論の中身を知っておくべきだと思います。せっかくオープンに議論されたのだから。

たぶんうまく伝わってないと思うけど、もちろんあらゆる問題について「仕分け側が100%正しい」なんて話ではないのですよ。若手支援とか、そりゃまずいんじゃないのというような議論もあるわけです。そのいっぽうで基礎科学としては歓迎すべき意見も出たことも理解したほうがいい。


2009/11/09 Physicaの血液型論文

カテゴリー: サイエンス

ABOFANさんが挙げておられる最近の文献の中にPhysica掲載のものがあったので、読んでみました。

論文はこれ

B.J. Kim, D.M. Lee, S.H. Lee, W.S. Gim: "Blood-type distribution", Physica A 373 (2007) 533

すでに奥村さんがとりあげて、計算もしておられます。

http://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/stat/bkare.html

だから、本質的に付け加えることがあるわけでもないのだけど、いちおう計算以外のことを。

この論文では血液型分布の統計的な検討をしていて、ほとんど関係のない三つの話題が扱われています。これがどうしてPhysicaに載ったかというと、二番目の話題がいわゆるcomplex networkに関係するからでしょう。それでも、ほかの二つは物理とほとんど関係ないし、三つの相互の関係もないし、妙な論文ですね。というか、最近のPhysica Aは妙な論文ばっかりのような気もしますが、まあいいか。

そんなわけで、物理とほとんど関係ない二つの話題について。

最初の話題は、血液型についてHardy-Weinberg平衡が成り立っているかどうかを統計的に検証するというもの。これはかなり重要なテーマだと思いますけど、先行研究があるのかないのか、調べていないのでわかりません。あってしかるべきですね、もちろん。

僕もごくたまに統計学の授業で血液型を扱いますが、とりあえずHardy-Weinberg平衡を仮定します。仮定しないと計算できないので。Hardy-Weinberg平衡が成り立っているとどうなのかという話は伊庭君の

「ベイズ統計と統計物理」(伊庭幸人)

でも参照してください。これは名著なので、ひとり二冊くらい買って、田崎統計力学本と並べておくように。

閑話休題

ここでの帰無仮説は「配偶者の選択は血液型と関係なく(つまり、血液型で見れば、ランダムに)行なわれて、Hardy-Weinberg平衡が成立している」というもの。能見風に言えば「血液型で相性はわからない」ということです。

で、292組の夫婦について、血液型の組み合わせの出現頻度を調べ、それをHardy-Weinberg平衡が成り立っていると仮定した場合の出現頻度と一致するかどうか、カイ二乗適合度検定をしています。

奥村さんによると、Fisherの正確検定のほうがいいらしいですが、まあ普通は教科書通りにカイ二乗検定で済ませばよいでしょう。

結果は帰無仮説が棄却されず、Hardy-Weinberg平衡が成り立っているとみなしてよいというもの。つまり、「配偶者の選択は血液型と関係なく行なわれている」と結論されます。まあ、予想通りですか。今後も授業で血液型を扱う場合は、Hardy-Weinberg平衡を仮定してよいということで、よかったよかった。「血液型が相性に影響する」ということだと、どう計算していいかわかんなくなって困りますけど、とりあえず困らない。

次の複雑ネットワークの話は飛ばして、三つ目の話題が血液型と性格検査の関係。ABOFANさんもよくこんなPhysicaに載った韓国人の論文なんか見つけてきますね、いやいや。

ここでは852人を対象にMyers-Briggs-type indicator testちゅうのをやります。MBTIは性格をそれぞれ二者択一の4つの指標を使って16通りに分類します。これを血液型別にやって、違いを見たいわけですが、四次元空間での完全な分布で議論するには852人では足りないので、各指標ごとに独立に血液型による差を見ます。

これをやってみると、四つの指標のうち、三つまでは血液型による違いはありません。唯一、SensingかIntuitionかという指標は、A,O,ABでは違いがないのにB型だけが有意に違うという結果になります。そこで、さらにB型を男女に分けてみると、実は有意にずれるのは男だけであるということがわかります。

おおざっぱにいうと、B型男子以外ではSensingがIntuitionの二倍程度なのに対し、B型男子ではほぼ同数になっています。この差は統計上ははっきりと有意だというのが結論です。

ポイントはいくつかあると思いますが、まず、A,B女子,O,ABの各集団については、四つの指標のどれにも差は見られず、血液型によらない。そして、一個の指標について、B型男子の集団だけが突出して違う分布を示す。同じB型でも女子はほかと同じというわけです。

これはあまりにも妙な話ので、著者たちは理由として、韓国での最近の血液型ブームでは主としてB型男子に焦点があてられているからだ、と血液型ブームの影響を挙げています。要するに、映画「B型の彼氏」の影響だろうというわけです。ちなみに、「B型の彼氏」には論文のIntroductionで言及されています。もちろん、そうではなく、B型男子だけが本当に違う傾向を持つという可能性もあるわけですけど、それはless plausibleとしています。まあ、それはそうでしょうね。

しかし、「B型の彼氏」の影響なのはいいとして、Sensing/Intuitionにだけ差が出るってのは、どういう意味でしょう。

まあ、とにかくそういう論文です。

ところで、この論文をざっと見た範囲では、被験者をどうやって選んだかが書いていないようなんですけど、そこんとこどうなんでしょ。

ああ、奥村さんの解説につけくわえた部分がほとんどないかも


2009/11/08 ウィルスとアルコール「消毒」と「殺菌」 (追記あり 11/9)

カテゴリー: サイエンス,インフルエンザとタミフル問題

twitterで話題になったので、いちおう書いておきます

インフルエンザ・ウィルスは脂質二重膜(細胞膜と同じ・・・というか、そのもの)に包まれているので、アルコールで破壊できる。バクテリアの細胞膜(これは細胞壁と呼ぶのが正しい?)を破壊するのと同じ。したがって、インフルエンザ・ウィルスにはアルコール消毒が有効。ウィルスを「殺菌」するというのは、言葉としては間違っているが、効果としては間違っていない。

いっぽう、多くのウィルスは脂質二重膜ではなくタンパク質からなるカプシドに包まれているので、アルコールでは破壊されない。

(追記 11/8:

えー、読み直すとウィルスの構造についての記述がめちゃめちゃ不正確ですね。カプシドの外側に細胞膜のエンベロープで、カプシドがないわけではありません)

だから、インフルエンザ・ウィルスの例をもって、「ウィルス対策にはアルコール消毒」などと考えてはだめ。

基本的にはアルコールは「殺菌」するものだと思う。それに対し、ウィルスは菌ではない。

いや、僕もインフルエンザ・ウィルスのエンベロープが脂質二重膜だということを今回の新型騒ぎで初めて知りました。最初は「ウィルスにアルコール消毒だなんて、なんにもわかってないじゃん」と思っていたのですが、わかっていないのは自分のほうだったよ。

[追記 11/9]

ウィルスとバクテリアの破壊メカニズムについて指摘をいただきました。

インフルエンザ・ウィルスについては、膜融合で感染するし、感染に必要なHAやNAは膜上に生えてるので、いずれにしても膜を破壊すれば感染できなくなるのだと考えていたのですが、それでよいかしら。ウィルス本体はRNAなので、これを破壊するのはまた別の問題ですね。

バクテリアのほうは代謝があり、普通の意味で「生きて」いるから、細胞壁を破壊すれば死ぬんじゃないかなあ程度のぼんやりした理解で、こちらのほうがいい加減すぎるかもしれません。


2009/11/07 バイオラバー関連論文

カテゴリー: ニセ科学,波動

バイオラバーについては、NATROMさんのブログなどで以前から議論があり、さらに先日販売会社の社員(作っている山本化学工業ではありません)が逮捕される事件になっちゃったので、すでにいろいろなところでとりあげられています。僕もちょっとだけ調べてはいたものの、なんとなくまとめずにいたのですけど、朝日新聞11/5夕刊に

..............

パンフに「学会承認」

癌学会 中止警告

..............

という記事が出たので、この件についてちょっとだけ。

学会発表は、兵庫医大泌尿器科の島博基教授(昨年度いっぱいで定年退職だと思う)のグループによるもので、学会発表すること自体はいいとして、日本のいくつかの学界とアメリカ癌治療学会での発表を「学会で承認」と表現したことが問題になっています。あたかも研究結果に学会がお墨付きを与えたように読めるというので、これについて、日本癌学会は山本化学工業に警告し、また他の学会も取材に対して一様に「承認という表現は不適切」という趣旨の回答をしたというもの。

これも既にいろいろな人の指摘で明らかなように、学会での発表を認められただけなのに、それを「学会で承認」と表現するのは明らかに通例に反するし、ありていに言って嘘なわけです。だから、学会としては当然そういう回答になるはずです。

「学会で承認」という言葉で相手を誤解させておいて、意味を訊かれたら「嘘ではなく、発表することが承認されたという意味であり、研究内容が承認されたという意味ではない」と答えればいいと考えていたのでしょうが、そうだとすれば、非常に悪質です。

ちなみに、会員なら誰でも無審査で発表できる学会もあれば、審査のある学会もあるので、「発表を認められる」ということはあると思いますけど、それを「研究結果が学会で承認された」とは表現しないということです。

すると、問題は「学会で承認」と言い出したのが誰なのかなのですが、仮に島教授の知らないところで山本化学が勝手にそう表現したのであれば、島教授はかなり信頼を傷つけられたことになります。また、万が一、島教授自身が「学会で承認」と表現したかあるいは山本化学工業がそう表現するのを黙認したかであれば、島教授が不誠実だということになります。

ネットで見つかる文書は

..................................

       米国臨床腫瘍学会が正式承認

米国臨床腫瘍学会(ASCO)正会員で医学博士の島博基(兵庫医科大学教授)は、人体の持つガン抑制遺伝子等を活性化する特殊材料を応用し、ガンを死滅させることの出来る新療法を開発致しましたことをここに発表申し上げます。

このガンを死滅させる新療法は5月13日〜17日米国フロリダ州オーランドで開催されている世界最大級の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でも正式認証を受け、米国臨床腫瘍学会報告書に記載されました。

......................................

で始まるのですけど、この文書は誰の名前で出されたものなのか。

第一段落の文章を読むと、島教授名で出たものとしか思えませんが、さてね。

それから、問題の「論文」ですが、まず、2005年のASCO年会で発表されて「米国臨床腫瘍学会報告書に記載された」というものが

http://meeting.ascopubs.org/cgi/content/abstract/23/16_suppl/4779

これは論文じゃなくて「要旨」ですけど、この問題に関して出版された唯一の文献かもしれません。

ところで、この要旨が掲載された「報告集」の目次は

http://meeting.ascopubs.org/content/vol23/16_suppl/

で見られます。これを見る限り、番号の抜けはほぼないようなので、発表された論文はすべて掲載されているのでしょうね。まあ、要旨集だから当然ですが。この範囲に「正式認証」だのなんだのと強調する余地はありません

次がNature precedingsで公開された「論文」。

http://precedings.nature.com/documents/1980/version/2

Nature precedingsというのは、Natureがやっているプレプリント・サーバーのようなもので(実際には、post-preprintでpre-publicationという針の穴を通すような位置づけなので、プレプリント・サーバーと呼ぶと怒られるかもしれないけど、査読されていないという意味では、preprintとしか言うようがない)、ここに公開したからといってNatureグループの論文雑誌に掲載されたと認めることはできません。だって、査読されていないのだもの。つまり、この「論文」はまだどこの雑誌にも掲載されていないものです。

Nature precedingsにはそれなりの理想があると思います。ちゃんと使えば、ですが。しかし、Nature系の雑誌に掲載されたと誤解する人も出てくるし、それを意図して論文を掲載する研究者が出てくるのも必然のように思います。まあ、それはNature precedingsが悪いわけじゃないんだけど。もちろん、島教授がそれを意図したかどうかは知りません。

いずれにしても、これは「査読を通った論文」ではない。そして、仮にこれをこのまま通す雑誌があったら、「ダメ雑誌」認定でいいでしょう。

とりあえず、生物の実験結果は置いといて、

....................

This could be theoretically brought by the effects of the structure-based substance wave at a frequency of 2.27×10^33/s radiated from the molecules by resonance when exposed to far-infrared rays.

...................

なんていう文が出てくる時点で、却下でいいです。

周波数10^33Hzの謎の波動が出てくる論文を信じるほうが間違っています。the structure-based substance waveって、なんのことかわかりません。これは単に「物理を知らない医学者に対するこけおどし」以外の何ものでもありません。これだけのために1900年のプランクの論文を引用するところなども、「こけおどし」ですね。

いや、誤差の範囲にはいっている「差」を有意のように扱ったり(その差から、10^33が出るらしいですけど)、ほかにもどうしようもない部分だらけなんですけど、こんな状態で真剣にとりあう必要がありますかね。

さて、その島元教授ですが、

http://saito-medialib.org/fp/02/

のp.13左上に書かれているプロフィール(小さいのをがんばって読む)によると、

...................

2009年、宝塚メディア図書館内に「日本波動医学研究所」を設立

..................

と書かれているように見えます(でかいディスプレーをお持ちのかた、確認していただけると幸甚)。波動医学ですか、そうですか。すると、このthe structure-based substance wave at a frequency of 2.27×10^33/sっていうのがその「波動」で、この論文は「日本波動医学研究所」のための布石なんでしょうか。

そして、その研究所はすでに設立されたのでしょうか。

というわけで、この記事のカテゴリーは「波動」にしておきます


2009/11/07 空気清浄機とインフルエンザ・ウィルス

カテゴリー: ニセ科学,マイナスイオン

朝日新聞の11/5朝刊(地域によるかもしれませんが)に

「空気清浄機 インフル予防効果は」

と題する記事が掲載されていました。

僕も最近、イオン発生器はインフルエンザ・ウィルスに効果があるのか、という質問(というか、取材)をよく受けるのですけど、実際、イオン発生器やら空気清浄機やらがインフルエンザ対策を謳う例が目につきます。メーカーのサイトを見ても、家庭で使う場合の効果はまったく検証されていないと思うのですけど。

もちろん、ウィルスにイオンだの電解水だのを当てたら、効果はあるだろうし、そういう実験の結果を否定するつもりは特にないのだけど、問題は「家庭での使用環境で考えるとどうなのか」です。

たとえばダイキンは、ストリーマ放電によってH1N1を100%分解するという実験結果を発表していて、それはそれで正しいのだと思います。でも、実験は

............

インフルエンザウイルス溶液をペトリ皿に入れ、ストリーマを1〜4時間照射する。

............

で、100%分解されるのは4時間照射の場合だからね。

http://www.daikin.co.jp/press/2009/090915/index.html

プラズマクラスターについては

...........

プラズマクラスターイオンが、付着新型ウイルス(シャーレに滴下)を2時間で99.9%抑制(イオン濃度約30万個/cm3)、加えて浮遊新型ウイルス(容積1m3ボックス内に浮遊)を40分で95%抑制(イオン濃度約2万5千個/cm3)することを実証しました。

...........

です。

http://www.sharp.co.jp/corporate/news/091102-a.html

ナノイーは

...........

今回の検証は、約45Lの実験空間においてシャーレ底面に滴下した新型インフルエンザウイルスに帯電微粒子水を空間を介して曝露することでウイルスが99%抑制されることを検証しました。

............

http://panasonic-denko.co.jp/corp/news/0910/0910-15.htm

実験条件がどのくらいきちんとしているのか、よくわかりませんけど、まあここで報告されていること自体はそのとおりなのでしょう。イオンでウィルスを無力化することは可能でしょうから。

だけど、これって家庭での使用条件と全然違うではないですか。

放電でできるイオンは再結合しちゃうから、遠くには届きにくいですよね。ナノイーは「届く」が売りで、プラズマクラスターは送風機とかで遠くに飛ばそうとしています。もともと届かないのですよ。小さい箱の中なら放電によってもうもうたるタバコの煙も除去(まあ、壁とかに付着するんですけど)できることは、そこらの通販広告にも出ているとおり。問題は「効果の及ぶ範囲」じゃないのかなあ。

加えて、そもそもインフルエンザは空気感染じゃなくて飛沫感染だから、こういう実験が現実の感染にどう関係するのか、まったくわかりません

実際、新聞記事は国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長のコメントを引いて

..........

「通常は、せきなどてウイルスが飛び散る飛沫感染や、手にウイルスが付くことなどによる接触感染でうつる」として、空気清浄機に過大な期待をするのは無理があると指摘

..........

と書いています。

全然意味がないわけでもないのでしょうが、ウィルス対策としてどの程度の効果を期待できるのか、まったくわかんないです。

補助的な意味くらいはあるのですかね。

ちなみに、新聞に出たメーカーのコメントは

.........................

接触感染の原因となる床や家具に付着したウィルスの抑制にも効果が期待できる(パナソニック)

........................

予防は手洗いやマスクが基本だが、空気清浄機を併用することで、より安全な空気環境で生活できる(ダイキン)

.......................

空気感染も状況によってはありうる

手洗いや咳エチケットなどとセットで感染予防に役立ててほしい(三洋)

.......................

だそうで、「インフルエンザ・ウィルスを分解」とかいうプレスリリースに比べると、かなり控えめになっています。

もちろん、訊かれたら、そうとしか答えられないでしょうけど

こういう技術にはきちんとした使い途があるはずで、役に立つ場所はいくらでもあるだろうし、ウィルス対策として使える場面もあるでしょう。医療機関での応用場面はありそうですよね。技術として開発していく意味はあるはずです。

ただ、家庭用の空気清浄機としてどの程度意味があるのかというと、かなり疑問です。

家庭でのインフルエンザ予防に効くかのように世間を誤解させて売るのは、だめだと思いますね。結局、マイナスイオンで反省しなかったということですかね。

もちろん、マイナスイオンの「気分がよくなる」とか「(なんかよくわからんけど)健康にいい」とかいう謎の効果に比べれば圧倒的にまともですけど、「滝のそばと同じ」という無意味なイメージ戦略に比べてものすごくまともかといわれると、どうかねえという感じです。

こういう記事が普通の新聞に大きく出るようになったのは、よいことです


2009/11/06 youtube チャンネル

カテゴリー: イベント・告知

youtubeに研究室のチャンネルを作ってみました。

どんな動画を掲載するつもりなんだと言われても、特に予定はないのですが。

とりあえず、「ニセ科学フォーラム2009」の予告編を掲載しています。

天羽さんの講演タイトルが長いため、名前がとても小さくなっていて、申し訳ないのですが、仕様です。

http://www.youtube.com/user/KicLab

研究室紹介のビデオを作るという計画だけはずっと以前からあるので、できたら掲載されるのでしょう


2009/11/03 ニセ科学フォーラム2009 (確定)(追記 11/12)

カテゴリー: イベント・告知

[追記11/12]

予想外の勢いで申し込み数が増えていまして、会場の収容能力の都合で、もしかするとかなり早めに締め切るかもしれません。東京でやるよりは少ないだろうと考えて会場を決めたのですが、もっと大きいところにするべきだったのかもしれません。いずれにしても、参加するつもりのかたは、お早めにお申し込みください

.........................

ニセ科学フォーラム2009の詳細が決まりました。

時間があまりなくて申し訳ありません。

実行委員会のウェブページは前回同様

http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/nk/">http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/nk/

にあります。今後のお知らせはそちらに掲載する予定です。

一度、日程を間違えて掲載しました

11/23(祝)です

また、参加者としては、広く一般のかたを対象としています。

ニセ科学に興味のあるかたは、気軽にご参加ください。

............................................

ニセ科学フォーラム2009

私たちのまわりには、科学のように見えてもじつは科学とはいえない「ニセ科学」があふれています。他愛のないものもあれば、深刻な問題を引き起こすものもあります。ニセ科学とはどのようなもので、どんな問題があり、なぜ広まるのか、また教育や科学の現場、そして生活の中でこれをどう扱っていけばいいのか、そのようなニセ科学にまつわるさまざまな問題を議論するために私たちは『ニセ科学フォーラム』を開催してきました。大阪では初めてとなる今回のフォーラムでは、大阪大学の藤田一郎教授をゲストにお迎えし、『脳の迷信』と題して昨今の脳科学ブームについてお話しいただきます。

日時 : 11/23(祝) 13:00-16:30 (12:30より受付)

場所 : 大阪大学中之島センター10F 佐治敬三メモリアルホール

プログラム

「ニセ科学のある風景」 菊池誠(大阪大学サイバーメディアセンター)

「教育の世界にはびこるニセ科学」 左巻健男(法政大学生命科学部)

「ニセ科学を巡る批判的言論における不法行為責任 名誉毀損訴訟の報告」

天羽優子(山形大学理学部)

「大学で扱う科学とニセ科学」 飯島玲生(大阪大学scienthrough(学生団体))

「脳の迷信」 藤田一郎(大阪大学生命機能研究科)

全体討論

入場無料(事前申し込み受付)

e-mail: nisekagaku09@gmail.com

主催 ニセ科学フォーラム2009実行委員会 / 大阪大学21世紀懐徳堂

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