テルミンは明日発売です。
あらかじめ言っておくと、僕が監修した「原理」の説明は非常に簡単化してあり、あまり正確ではありません。ビジュアルな説明ということで、ごまかした部分も多々あります。雰囲気がわかってもらえれば、という感じ。
もっと詳しい説明を用意中で、これは「大人の科学」のウェブサイトに掲載予定です
若干の不確定要素はありますが、ルーディ・ラッカー(Rudy Rucker)にセミナーをしてもらう予定です。某国際会議のために京都に来ることになっていて、それを1/4日ほどさぼって来てもらうので、少々申し訳ないのですが。
現時点での予定(9/27現在)
日時 10/16(火) 17:00-
場所 サイバーメディアセンター豊中教育研究棟7F会議室
講師 ルーディ・ラッカー(San Jose State Univ., SF作家)
題目 Psipunk (注: 通訳はありません)
参考 http://www.rudyrucker.com/blog/psipunk/
実は僕は過去にラッカーの短編を二編訳しています。早川SF文庫所収
物理学会のため、札幌に来ています。発表終わり。半端でごめん。
さて、北大キャンパスでやはり学会に来ている某氏(^^)とばったり会い、久しぶりなのに(なのに、ってことはないか)、Steven Jonesの話題に。
某氏は原子核物理が専門で、しかもジョーンズと同じ「ミューオン触媒核融合」の研究もしていたそうで、まさに同業。
ジョーンズは常温核融合"事件"の当事者のひとりだったが、フライシュマンとポンズがかなり評判を落としたのに対し、穏当なデータにもとづく穏当な説のおかげで評判を落とさなかった人。フライシュマンとポンズはありていにいうと「トンデモさん」扱いになったが、「ジョーンズの論文はまともだった」と多くの人に思われ、常温核融合事件を無事に生き延びたのだった。某氏もそれについては、だいたい同じ感想。
だからこそ、911陰謀論の理論面を引っぱる人としてジョーンズが登場したときには、驚いたのだった。せっかく常温核融合事件を生き延びたのになぜ、というのが正直な感想。まともな学者ではなかったのだろうか。
もっとも、「生き延びた」は違ったのかもしれない。常温核融合以降、大学や学会での立場が微妙になっていたのかもしれない。それは僕にはわからないのだけど、とにかく、ジョーンズの発言に「哀れ」を感じるのはそういう理由だ。
今日の新聞に、阪大などいくつかの大学が協力して、漢方薬のメカニズムを解明する研究を始めると出ていました。
漢方薬の多くは、効くことはわかっていても、なぜ効くのかわからない、というもののようです。メカニズムの解明は重要ですね。
さて、いろいろなところで話していますが、漢方薬の問題は血液型性格判断での代表的な誤謬のひとつである「メカニズム論」と関係があります。
世の中には「漢方薬はメカニズムがわからないからニセ科学だ」などと言う人もいるようです。僕たちはそのような立場に与しません。薬が効くか効かないかは、臨床的に研究すればよいのです。臨床データによって「効く」ことが立証されているなら、メカニズムがわからなくても問題はありません。それは科学的になんの問題もない手続きです。もちろん、メカニズムがわかるに越したことはありませんが、「科学的」であるための必要条件ではありません。逆に、いかにメカニズムがあろうと、臨床試験を経ないものは薬として認められないのです。
西洋医学嫌いの人の中には、怪しげな代替医療も漢方薬も十把一絡げにする人がいます。まったく違います。効果が臨床的に確認されているかいないかが、本質的に重要です。ホメオパシーなどは、残念ながら、その条件を満足しません
別エントリーで書いたとおり、「9.11自作自演説」は見るべきところの何もないナンセンスです。
ところで、タイミングよくというかなんというか、グリーンスパン前FRB議長の回想録に「イラク開戦は石油利権のためだった」と書かれているというニュースが流れています。「大量破壊兵器説」は単なる建前にすぎず、まさにアメリカの「陰謀」だというわけです。真偽のほどは今後検証されるのでしょうが、おそらく多くの人の感想は「やはりそうだよな」ではないでしょうか。
all or nothingで「アメリカが悪いのだから、すべてアメリカがやった」としか考えることのできない「9.11自作自演説」論者はこれを読んで、「アメリカの陰謀が証明された」と言うのかもしれません。
もちろん、そうではないことは自明です。アメリカ政府が9.11を「利用」したと考えている人は多いし、僕もそうだと考えています。しかし、そのことと、9.11そのものを誰が起こしたかとは、まったく別の問題です。当然ですね。
この話は前のエントリーでも「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」として議論されたものですから、改めて言う必要はないのですが、鬼の首でも取ったかのように言い出す人がやってくると面倒なので、念のために書いておきます。
週末に鳥取で話をしてきました。日帰り。往復8時間、滞在4時間。
「水からの伝言」に関連して、「音楽を聴かせたお酒」の話題が出ました。
液体が本当に揺れるくらいの大音量でヘヴィメタルを聴かせ続けたら、なにがしかの効果があるかもしれません。どこかでそういう記事を見たような記憶もあります。
そうでなく、単に熟成期間中に酒蔵で音楽を流した、という程度では何も起きないと考えるのが自然です。もちろん、音楽そのものの質も関係ありません。モーツァルトに秘密の効果がある、ということもありません。所詮、相手は単なる物質ですから。
では、「音楽を聴かせたお酒」というコンセプトは無意味なのかというと、そうではないだろうと思います。買った人が「思いを馳せることができる」という価値はあるのではないでしょうか。つまり「このお酒の熟成中に、あの音楽が流れていたのだなあ」などと感慨にふけりつつ飲む、ということに「付加価値」を見いだしてもいいのだと思います。まあ、「誰それが使ったバット」みたいなものです。
そういう「あくまでも精神面での付加価値」として「音楽を聴かせました」と謳うのは充分に「あり」だと思います。そういうものなら、なにも「非科学的」と目くじらを立てることはないでしょう。お酒は嗜好品ですし。
しかし、実際にやっている人たちは、音楽を聴かせることで熟成に対してなんらかの「実際の効果」があると信じ、それを売りにしているのでしょうね。現実の効果を謳うなら、きちんと検証しなくてはなりません。しかし、音楽の物理的効果は期待できないですよ。
「音楽によって熟成が進む」みたいなニセ科学的効果を謳う必要はまったくないはずで、「精神面での付加価値」に限定したって、売れ行きが変わるとは思えません。
追記:
下のほうで亀さんからいただいたコメントに関連して。
熟成期間中に振動を与えたらどうなるのか、ということについて、僕はよく知りません。「よくなる」という研究はあるようです。振動といってもいろいろあるので、一概には言えませんしね。
「音楽を聴かせる」ではなく、「振動源」として使うのは「あり」だと思います。効果の検証はしてもらいたいですが、単に「蔵の中で音楽をかけました」とは違う話でしょう。
話題が出たので、ここで。
これまでにもスターリング・エンジンやプラネタリウムなど、すぐれた科学教材を付録につけてきた学研「大人の科学」ですが、2007/9末発売号はついに「テルミン」です。
僕はサンプル品をもらったので、以下に実際に弾いてみての感想を。
もちろん所詮は「付録」ですから、本格的な楽器を期待するわけにはいきませんが、値段を考えると、これは非常にクオリティが高い。「演奏して遊ぶ」ぶんには充分に使えるものになっています。これの数倍の価格で全然使えないテルミンだってあるのですよ。
音域は2オクターブ半程度で本格的テルミンの4.5から5オクターブにはおよぶべくもないですが、普通の「歌もの」を弾くなら充分です。音色はクラシックなテルミンに近いもの。モダンなテルミンに慣れていると気になるかもしれませんが、クララ・ロックモアやサミュエル・ホフマンの「古典的テルミン・サウンド」に似た雰囲気の音で、なかなかいい感じです。
ちなみに、ラインアウトをとれるように改造してミニアンプで鳴らすと、音もより「古典的テルミンサウンド」に近くなるし、安定性もぐっと増します。
というわけで、テルミンというもので遊んでみたい、というかたにはお薦めです。小さいので、デスクに置いておくとよいのでは。
あ、音量アンテナはついていません。学研のサイトで写真を見ると音量アンテナがありそうですが、あれはスイッチです。あのサイズで音量アンテナは無理です。
ただし、世の中にはこういうことをする人も(^^↓
http://njb.virtualave.net/web/rl2007/theremin/theremin.htm
テルミンは電磁気学の簡単な原理で鳴るので、科学教材としてよいと思います。
9.11の日、テレビで見ていたWTCの崩壊に、本当に「世界の色が変わった」ような気がしたものです。
9.11はアメリカ政府の自作自演だとか、WTCの崩壊は爆破によるものだとか、そういうたぐいの陰謀論を弄ぶ人たちがいまだにいます。妄想力はあっても想像力のない人たちということですが、死者への冒涜という意味でも許し難い。
WTC爆破説の急先鋒がスティーブン・ジョーンズだというところに、さまざまな意味で「哀れ」な気がします。物理学者としてそれなりに名をなした人なのでしょうが、専門分野のことは知っていても「科学」を知らなかったということです。
日本にも9.11陰謀論を弄ぶ人たちがいます。妄想と現実の区別がつかないのでしょう。
想像力と妄想力は違います。
だいじなのは想像力
気になるかたには、基本文献として、奥菜秀次著『陰謀論の罠』(光文社)をお薦めします
必要なのは想像力だ
「他人は相当に素朴にしか物ごとを考えないのに対し、自分は素朴には考えない」と思いこめるというのはかなり問題で、そういう立場から書かれた「ニセ科学批判批判」に見るべきところは何もない。しかし、それが「科学に携わるもの」の立場で書かれると、非常に迷惑だったりする。
「自分が思いつく程度のことは相手も考えているのではないか」と想像してみるのは重要。
どんなに馬鹿なことでも、それなりに長く続けていれば、それなりに考えるもので、そうそういつまでも「相当素朴に」はやっていけないでしょう。さすがに「その場の思いつき」とは違うわけで、そのくらいのことは考えてもいいのにと思う。
想像力はだいじ