水商売ウォッチングLIVE! とはなにか

大阪大学サイバーメディアセンター 菊池誠(kikuchi@phys.sci.osaka-u.ac.jp)
以下は「物性研究」誌2001年8月号に天羽優子さんの"水商売ウォッチング"の記事が掲載された際、 序文としてつけたものである。我々が"水商売ウォッチング"をどのように位置づけているかを 知っていただくための参考としてお読みいただければと思う。

なお、「物性研究」のホームページはこちら
"水商売ウォッチング"というウェブサイトをご存じだろうか。 とっくに知ってるよ、大ファンだよ、というかたには、私の文章などまったくの蛇足(はじめについてるのに"足"なのか?) なので、早速次のページからはじまる天羽氏の文章へGO!。 一方、そんなものは聞いたこともないぞ、というあなた。『物性研究』の目次を見て、ぎょっとしただろうか。 なんで『物性研究』に"水商売ウォッチングLIVE!"なんていうわけのわからないタイトルの原稿が載るんだよう、 と思われただろうか。そういうかたはちょっとこの文章を読んでいただくといいかもしれない。

通販カタログやテレビショッピングやウェブショッピングを眺めていると、 世間には、水の波動をよくする浄水器だの水のクラスターを小さくする活水器だの磁気処理水だの といった水に関る"物理学者が見ても正体のよくわからない"怪しい器具が実にさまざま売られていることがわかる。 それらはいったいどういうもので、どういう効果があるのか。そもそも、科学的に意味の あるのはどれなのだろうか。 物理学者でもよくわからないのだから、一般の消費者は本当になんのことやらわからずに買っているのだろう。 天羽優子氏(阪大VBL)の"水商売ウォッチング"は、そういう疑問を物理学者の目で追求するウェブサイトである。

物理学者が社会に貢献する方法はいろいろありうる。 怪しい情報が乱れ飛ぶ中で、それを科学的に判断するための情報を提供していくのもまた社会貢献 として重要な作業のはずだ。天羽氏の"水商売ウォッチング"はそのひとつの好例である。 実際、BBSやメーリングリストなどで水に関る怪しい話題が持ち上がる たびに必ずといっていいほど言及されるのを見れば、いかにこのサイトの提供する情報が重要なものか わかるだろう。

このサイトに感銘を受けた我々は、天羽氏が阪大VBLにおられるのをさいわい、阪大理学部でセミナーをしていただいた。 そのセミナーのタイトルが"水商売ウォッチングLIVE!"であり、 その際に天羽氏から"レジュメ"と称して送られてきたのが、次ページからはじまる原稿である いや、これはレジュメなどという生やさしいものではない。 なにしろ、(1)非専門家向けの水科学入門(2)ニセ科学・病的科学入門(3)水商売に関する怪しい事例研究 と、一粒で三倍以上は楽しめる抜群に面白い原稿だったのだ。 この原稿をこのままにしておくのはあまりにもったいないので、早川編集長と相談の結果、『物性研究』に掲載 させていただくことにした。お楽しみいただきたい。そして、いろいろ考えるきっかけとしてただければと思う。

さて、"水商売"に限らず、世の中にはニセ科学・似非科学・病的科学が横行している。 この場を借りて個人的な見解を書かせていただくと、物理学者はもっとニセ科学・似非科学の実態を 知るべきなのだ。さいわい、その分野の良書もいろいろ出ているので、手にとってみることを お薦めする。
脚注:ちなみに、"水商売"という言葉の使われ方について疑問をもたれるかたのために補足を。 実のところ、この文脈での使われ方は別段珍しくはないのだ。 たとえば、今から十年近く遡る1992年に「週刊文春」に連載された「告発! "蛇口産業"の内幕」という 記事中でも、既にまったく同じ文脈で"水商売"という言葉が使われているのを見ることができる。 ある種の"専門用語"と理解していただけばいいかと思う。